かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

新作帖

光を運ぶもの~ハヤさんの昔語り#2-11(創作掌編)

「今日、『無知の知ノート』というコラム記事を読んだの」 と、ミルクコーヒーを作っているハヤさんに話しかけた。 私はこの頃、夕食後にコーヒーを飲むと寝付きが良くない。そこでハヤさんが、普通のコーヒーから変えてくれたのだ。 「無知の知というと、ソ…

杯の店(創作掌編)

※ 今回の掌編は音楽付きです。 猫p (id:nkobi1121)さんの演奏で、Piano Man♪ pianoman(piano) 行きつけのバーが閉店することになった。 古いビルが立ち並ぶ一角にある、バーテンダーひとりの小さな店だ。 再開発プロジェクトにより、老朽化した建物がいくつ…

ツノの月(創作掌編)

僕の恋人は、温泉と渓流釣りが楽しめる静かな観光地で生まれた。 小学生のとき、父親の仕事の関係で引っ越して以来、ほとんど帰ったことがない郷里だという。 それでも、僕はプロポーズをする前に、彼女のルーツとなる地を訪れたいと思ったのだ。 駅の改札を…

御池ガモの里親(創作掌編)

御池(みいけ)ガモは、ペット用に品種改良されたカモの一種で、ペットブームが過ぎた後、御池山公園の池に放置され半野生化した水鳥である。 公園の自然は造成されたものだ。 それでも、芝を植えた築山や、緑に囲まれた大きな池は、町なかのオアシス的存在…

煙の神様(掌編創作)~最初で最後の弟子⑪~

銀ひげ師匠の書道教室は定休日だったけれど、晶太は書道だけではなく、魔法の弟子でもあるので、修行は休まずに続ける。 入り口の引き戸を開けると、師匠が玄関まで来て、 「ちょっと出掛けてくるよ、すぐ戻るからね」 と言い、入れ違いに出て行った。 とこ…

雪娘の櫛、後日譚~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑩~(創作掌編)

ふと思い立って旧友を訪ねたら、先客がいた。 以前から話に聞いていた「山猫さん」という人だ。 旅の途中で立ち寄ったらしい。 「山猫さんは、物語を書くひとでね、お料理も上手なのよ」 と、友人が紹介する。 私は、料理はあまり得意ではないから多くを語れ…

雪娘の櫛~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑨~(創作掌編)

コーヒーを淹れるお湯の適温は、83度から96度だと言われている。 ハヤさんはコーヒー豆によって、88度か93度に分けているそうだ。 「さらに言えば、美味しく飲める温度は60度から70度なので、お客様にお出しするとき、70度以下にならないよう心掛けています…

テヅカ料理人学校の卒業実習(創作掌編)

toikimi.hateblo.jp 自分でも感心するくらいがんばった1年が過ぎ、料理だけではなく自信も身につけた、と僕は思った。 けれど今、「卒業実習室」へ向かいながら、胸のドキドキを押さえられない。 昨日、僕は医師の診察を受け、そのまま絶食した。 実習室に…

テヅカ料理人学校の料理対決(創作掌編)

学校を卒業したら、両親が営む小さな洋食屋を継ごうと決めた。 子供のころから見ているので、大変さはそれなりにわかっている。とはいえ、僕には他に進みたい道もなく、どうせならいちばん身近な人に喜んでもらえる仕事をしようと考えたのだ。 けれど、親た…

カプセル(創作掌編)

変わり者だが優しかった伯父が亡くなり、遺産としてカプセルホテルを相続することになった。 今でこそ、スタイリッシュで快適な進化型が増えてきているけれど、僕が相続したのは、築25年を数える個性派のカプセルホテルだ。 かつて伯父は、日本発祥のカプセ…

観天望気~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑧~(創作掌編)

「観天望気」 書いた文字を見せながら読みあげると、ハヤさんが首をかしげて言った。 「カンテンボウキ……、これまで使った記憶のない言葉です」 私も同じだった。今日、仕事で気象予報士の人と話す機会があり、仕入れてきたばかりの知識だ。 観天望気とは、…

シャンパンタワー(創作掌編)

めったに乗らないタクシーで、私は結婚披露パーティの会場へ向かった。 スピーチの原稿を何度も読み返す。 (道が大渋滞して、たどりつけなければいいのに)と考えていたら、むしろ早めに到着してしまった。 ホテルのエレベーターが故障して閉じ込められる、…

願い事の速度(創作掌編)

1泊2日の社内研修では、着いた日の夜に「星見イベント」が予定されていた。ペルセウス座流星群の出現期間ということらしい。 (流れ星 3度唱える 願い事) 妙な俳句調の言葉が頭から離れなかった。どうしても叶えたい願いがあるせいだ。 私の願い事は3つ…

かみふぶき(掌編創作)~最初で最後の弟子⑩~

銀ひげ師匠の書道教室に通って来ている泰一郎君が、弟子入りを志願したそうだ。 師匠からそのことを聞いて、晶太は目をみはった。 「どっちの弟子ですか?」 「それがな、書道ではなく魔法の方なんだ。他の生徒さんたちが話しているのを耳に挟んで、私が魔法…

創業百年目のタイムトラベル(創作掌編)

『伝統と変化』を社是とする老舗製菓会社・翠雨堂(すいうどう)は、創業百年を迎えるにあたり、タイムマシンを使った記念イベントを実施した。 近年、民間企業によるタイムトラベル事業が現実化したとはいえ、高額な料金に加えて、厳しい制約も課せられるた…

水鏡~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑦~(創作掌編)

『真実の顔を映す鏡』というものを見てきた。 普段、私たちが鏡のなかで見慣れているのは、左右反対の顔だ。それを反転して映す鏡がリバーサル・ミラー「反転鏡」で、一般に販売もされている。たまたま立ち寄った店で見掛け、興味津々でのぞき込んだのだった…

釣り針(創作掌編)

僕が大切にしている「家宝」は、振り子と手書きの体験記の2つで、曾祖父母が生きた証しの品だった。 曾祖父はダウジングを生業としていた。 ダウジングとは、Y字型やL字型の棒、あるいは振り子を使って、地下の水脈などを探し当てるという、占いのような…

AIサファリ(創作掌編)

採用面接というより、お互いを知るための面談なので、堅苦しさを感じない雰囲気だった。場所も、交通アクセスと見晴らしの良いレンタル会議室だ。 面談相手は、私と同世代のプロジェクトリーダーで、うらやましいくらい仕事への情熱を持っている上、日に焼け…

魔女のおにぎり(掌編創作)~最初で最後の弟子⑨~

銀ひげ師匠の「妹弟子」という人が、書道教室を訪ねてきた。 名前は、ちとせさん。 書道の妹弟子ではなく、魔法の妹弟子なので、つまり魔女だ。 どことなく、晶太が小さいころから知っている看護師さんに似ている。注射が上手で、いつもゆったり構えているそ…

火点し~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑥~(創作掌編)

ハヤさんの珈琲店には、店名の入った小さな看板があり、外が暗くなるとLEDの灯がともる。 タイムスイッチによる自動点灯で、徐々に日没が早くなる時期には、すぐ気づいてタイマーの設定時刻を変えるのだが、日が長くなる場合は忘れがちだった。 「まだ日が暮…

アゲハ(創作掌編)

私たちアゲハの体のなかには、「らせんの教科書」というものが備わっていて、いつ何をどうすればいいか、自然にわかるようになっている。 卵に穴を空けて外に出るタイミングも、ひと休みしてから卵の殻を食べることも、その都度「らせんの教科書」に教わった…

ヒーローの任命式(創作掌編)

和弘にとって美里市民会館は、歴史的建造物と呼びたいくらい特別だ。 祖父も、父も、ここで結婚式を挙げた。 そして今日、市民会館の大ホールで、忘れかけていた子供の頃の夢が叶い、和弘はヒーローに任命されるのだ。 『ミサト・ガーディアン』は、50年近…

マスカレード(創作掌編)

僕は無個性な社会人だが、仮面の制作という少し変わった趣味を持っている。 「ベネチアンマスク」と呼ばれる、中世ヨーロッパの仮面舞踏会やカーニバルで使われていた、顔の上半分を覆うハーフマスクを作るのが好きなのだ。 あるとき、完成した作品を並べて…

ミミズの凱旋(掌編創作)~最初で最後の弟子⑧~

魔法使いの銀ひげ師匠は、書道教室の先生でもあるので、 ときには、額装や掛け軸にするための「書」も頼まれる。 4年前の書道作品を持って訪ねてきたのは、真新しいスーツ姿の、小網さんという人で、お祖母さんからの贈り物だったそうだ。 挨拶が済み、小網…

金魚の想い(創作掌編)

「コイじゃないのか?」 「違います、コイじゃありません」 昼休憩から戻ってきた男性社員2人が、声高にしゃべっている。となりの部署の課長と、その部下の江戸川さんだ。 (恋?) 優海は思わず、耳をそばだてた。 「でも、あの大きさはどう見てもコイ、紅…

ウチガミさま~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑤~(創作掌編)

ハヤさんの珈琲店では、2月限定のホットチョコレートが、隠れた人気メニューになっている。 「ちょっとした贅沢を味わえる」 と、普段はブラックコーヒー派のお得意様に大好評なのだ。 ホットチョコレートは、駅前の洋菓子店でパティシエをしている妹さんか…

オリジナルマジック(創作掌編)

クロースアップマジックと出合ったことは、人生最大の驚きと喜びだった。 至近距離で繰り広げられる、カードやコイン、ロープ、リングのテーブルマジックに魅了され、そのマジシャンがオーナーをしているマジックショップに通いつめたものだ。 そして、幸運…

蔵(創作掌編)~最初で最後の弟子⑦~

晶太がいつものように、銀ひげ師匠の書道教室へ行くと、ちょうどお客さんが帰るところだった。 このあいだスケアクロウのことで相談にのった、ゆなちゃんのお祖母さんが、若い女の人を連れている。ゆなちゃんと仲良しのつぐみちゃんのお母さんで、容子さんと…

「あなたは敗れたのです」(創作掌編)

サトシは中学時代からの友だちだが、正月も仕事で帰って来ないというので、こちらから会いに行くことにした。 シングルパックの切り餅をいくつかと、家にあった金箔入り吟醸酒をリュックに詰め、さほど遠くはないものの、一度も訪れたことがない町へ向かう。…

奇跡の一日(創作掌編)

僕は昼前に会社を早退した。毎年恒例のことなので、誰も気にしないし、何も言われない。 午前中に予約しておいた花屋で花束を受け取り、駅へ向かった。 霊園までは、電車を乗り継いで1時間半かかる。緑が豊かで広々とした、公園のような場所だ。 明るい陽光…