かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

雪娘の櫛、後日譚~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑩~(創作掌編)

 

 ふと思い立って旧友を訪ねたら、先客がいた。

 

 以前から話に聞いていた「山猫さん」という人だ。

 旅の途中で立ち寄ったらしい。

「山猫さんは、物語を書くひとでね、お料理も上手なのよ」

 と、友人が紹介する。

 私は、料理はあまり得意ではないから多くを語れないけれど、物語ならば話題は豊富である。常日頃、ハヤさんの昔語りに親しんでいるからだ。

  そこで、数日前に聞いたばかりの「雪娘」の話をしてみた。

 

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 山猫さんは優しい笑顔で耳を傾けてくれた。

「雪娘のお話、もっともっと聞きたかったなぁ。湯船に浮かんでいた朱色の櫛は、その後何も語ってくれなかったのでしょうか。わたしは熱いものは苦手じゃないですが、哀しいお話は苦手なんです」

 と、穏やかな眼差しを少しだけ翳らせる。

「雪娘は若者が好きだったのに、きらわれるのが怖くて本当のことが言えなかったのかも……。好意がすれ違うのは哀しいことですから、勇気を出して伝えるようにしたいものですね」

 私の受け答えは、何だか一般論のようになってしまった。

「もし、雪娘と若者が共に暮らしたとしても、すれ違いだったかもしれませんね。出逢ったことがよくなかったのかもしれないと思うと、余計に切ないです。瑞樹さん、ぜひハヤさんに、2人のアナザーストーリーを語ってもらってください」

 

 家に帰って伝えると、ハヤさんは目をみはって答えた。

「アナザーストーリーといえるかどうかわかりませんが、小夜と結婚し、子宝にも恵まれて幸せに暮らしていた四郎が、あるとき寸一を訪ね、不思議な話を聞かせたことがあります━━」

 

   △ ▲ △ ▲ △

 

 四郎と小夜のあいだに生まれた二人の子供は、それぞれに親の質(たち)を受け継いでいた。

 姉は母と似て暑さが耐えられず、弟は父と同じように寒さに震える。

 それでも仲の良い姉弟は、いつも一緒に時を忘れて遊んだ。

 

 雪が一面に降り積もれば、姉は大喜びで飛び出して行き、弟がその後を追う。

「あまり遠くまで行っちゃいけないよ。弟をこごえさせないよう気をつけて」

 小夜は、娘に念を押して送り出した。

 

 ところがある日のこと、姉と弟は遊びに出た雪の原で、突然の吹雪に見舞われた。

 姉にとっては心地よい雪粒だったが、吹きつける風に熱を奪われた弟の唇は、見る間に青ざめていく。

 弟をかばいながら、一歩ずつ家へ向かっていた姉は、これまで見たことのないものを目にして立ち止まった。

 雪で覆われた地面にぽっかりと穴が開き、そこから立ち昇る湯気が風に吹き散らされているのだ。近寄ってのぞき込むと、青く透きとおった湯がこんこんと湧き出ていた。

 

 手ですくって飲ませると、弟の顔に血の気が戻った。

「あったかくなって、力が出てきた」

 といって、笑顔になる。

 元気を取り戻した弟と手を取り合って歩き出し、ほどなくして、二人の身を案じ迎えに来た父母と出会ったのだった。

 

 その冬が過ぎる頃には、雪の原に現れる不思議な出で湯のことを、知らぬ者はいなくなった。

 雪に降り籠められるのに飽きて遊びに出る子供は、必ず竹筒を持たされる。

 湧き出る湯を飲めば体が温まり、竹筒に詰めて懐に入れれば、家に帰るまでけっして冷めることはなかった。

 

   △ ▲ △ ▲ △

 

 湯は雪を溶かして湧き出すが、深く積もった雪が溶けて消え去ることはなく、また、いくら雪が降りかかっても、青く澄んだ湯が冷めることもない。

 その光景を思い浮かべて、胸が熱くなった。

 

「きっと、雪娘と四郎の叔父さんは、長い時をかけて、子供たちの守り神になったのよね」

 問いかけるように呟くと、ハヤさんがうなずいて答える。

「そうですね、四郎も寸一に、そう言っていました」

 

 

※ 山猫(id:keystoneforest)さんとのコメントのやりとりから生まれた掌編です。

  猫舌ではない山猫さん、ありがとうございます。