かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

めまい検査でVRゴーグル

 

2019年に突発性難聴、その翌年にはメニエール病を2度発症し、通院治療でよくなりましたが、耳鳴り・聴覚過敏・軽いめまいは依然として残っています。といっても、日常生活に支障のない程度です。

 

ところが春のお彼岸のころ、明け方に気分の悪さで目を覚まし、起き上がろうとしたとたん、今まで経験したことのない「回転性のめまい」が起こりました。

耳鼻科でめまいというと、「ふわふわ(浮動性/動揺性)」か「ぐるぐる(回転性)」かと聞かれますが、これまで私はどっちもあると答えていました。

「目がまわるような感覚」を「回転性」と思っていたのですが、実際に回転性めまいを体験してみると、とてもとても、そんなものではないことがわかりました。ほんとうに、天井や壁など、周囲がぐるぐる回って見えるのです。数分以上は続いたと思います。

 

激しいめまいは1度だけでしたが、その後も体調のすぐれない日が続いたため、受診を考え始めました。

以前、突発性難聴になったとき診てもらった耳鼻科の先生は「めまい相談医」です。人気のあるクリニックで待ち時間が長かったのですが、久し振りにホームページを見たところ、今は完全予約制に切り替えられていると知って、さっそくWeb予約しました。

ホームページ情報によると、VR(バーチャル・リアリティ)ゴーグルを使用した、めまい検査機器を新たに導入したとのこと。VRの仮想空間を用いることで、今までは大きな病院でしかできなかった検査が可能になったとあります。

 

初のVRゴーグル体験だったのでちょっと期待していましたが、特にアトラクション的な要素はなく(当たり前ですが…)、音声と文字に従ってVR上の指標を目で追ったり、白黒の縦じまが動くのを見つめたりといった内容でした。

「肉眼では見えない微細な自発眼振、注視眼振や、視運動刺激(空間の動き)に対しての目の動きを調べる検査」なのです。

所要時間5~6分で負担のない検査です。最後の方で、自分を中心に直径3メートルくらいのサークル状をした白黒ストライプの柵がぐるぐる回るようなVR動画になったとき、初めの右回りでは軽い酩酊感を感じたのに、次の左回りでは大丈夫だったのが、不思議といえば不思議でした。

 

その他にも、聴力検査や重心動揺計など、いくつかの検査をしてから診察です。

聴力は前回(5年前)からほとんど落ちていないと聞き、ひとまずほっとします。

そして、VRゴーグルを使った検査結果の、折れ線グラフのなかに点がちらばっているような画像を見ながら、

「右回りのときはちゃんと対象を見ていたけれど、左回りでは“サボって”見ないようにしている」

と説明してもらい、ひざを打ちたいほど納得しました。

最初のときに目が回りそうになったので、次には無意識のうちに、あえてピントをずらして見ないようにしていたのですね。私の脳は1度目の不快を記憶して、2度目にそれを回避したわけです。

 

さて、今回の診断は、

の2つが合わさったものだということです。

 

内耳がむくむ原因としては、首こり(椎骨動脈循環不全)・かたよった姿勢・歯の食いしばり・睡眠の質の低下・不安・緊張・プレッシャー・ホルモンバランス・気象の影響など、複合的な要因が考えられます。

良性発作性頭位めまい症は、「耳石」というカルシウムの小さな粒が、頭の位置の変化により、耳の奥にある半規管のなかを動いたため誘発された激しいめまいです。

 

私は胃がかなり弱いので、慢性胃炎にも効くとというめまいの薬や漢方薬などを処方していただきました。

薬で症状をやわらげながら、心と体と生活を整えていこうと思います。

 

VRゴーグル検査(イメージ)

 

隼雄さんの「カウンセリング教室」

 

私は河合隼雄さんのファンですが、本を読むのは久し振りでした。

河合隼雄のカウンセリング教室』(河合隼雄 著/創元社/2009年6月)は、四天王寺カウンセリング講座での講演記録をまとめたものです。

 

 

行間から著者の人間味あふれる声が聞こえてきそうな本です。

カウンセリングを学ぶ人に向けての講演集ですが、私のような一般の読者にも興味深く楽しく読めました。

 

特におもしろいと思ったのは、著者が交換留学生制度のフルブライト奨学生としてアメリカに留学し、ユング派の分析を受けていたときのお話です。

当時、月に170ドルが支給されていたのですが、物価が安い時代だったとはいえ、アルバイトをしてはいけないという規則もあり、ギリギリの線だったそうです。

その頃の分析代は1回25ドルくらいで、勉強のために受けなければならないのに、とても払えそうにありません。分析家の先生に事情を話すと、

「いやいや、おまえの場合は特別だ。日本人ではじめてこういう分析を受けにきたわけだし、自分も日本人の分析をするのに非常に意義を感じるから、料金なんか問題ではない」

と言って、破格の1回1ドルで分析してくれることになりました。

 

そういう経緯があって、著者はクリスマスに、日本から持参していた物をプレゼントとして持っていきます。ところが先生は「いや、これは受け取れない」と言うのです。

理由を尋ねると、次のように説明されました。

  • われわれはちゃんとした職業的な関係であり、契約している。
  • 私は1ドルもらって50分の時間、分析していこうと決めているんだから、それ以上おまえに何かもらうことは、自分としては負担を感じる。
  • おまえも、そういう物を渡したということで関係が甘くなったり、こちらが何かしてくれるんじゃないだろうかと思ったり、そういう気持ちが出てくることがある。
  • われわれはあくまでも契約関係に基づいて厳しい仕事をしているんだから、プレゼントは受け取らない。

 

 そこで「そうですか」と引き下がる人もいるかもしれませんが、私はそういうときに、なおも頑張るわけです。

私自身は「引き下がる人」なので、この言葉に思わずわくわくして続きを読みました。

隼雄さんの主張は以下の通りです。

  • あなたはそう言うけれども、いかに契約関係であると言っても、日本人の場合は「恩義を感じる」ということがある。
  • あなたが1ドルで僕に会ってくれているということはすごいことであって、その恩義を感じていることに対してプレゼントをしないということは、日本人としては心がおさまらない。
  • だいたい日本にはお歳暮という習慣があって…(延々と説明)
  • 普通は日本人は「心ばかりのものですが」と言って、何か渡したりもらったりしており、プレゼントをするときに長々と説明する者などいないが、これは日本の物で、日本人としてこれを差し上げる。

 

すると先生は、「わかった、この際、自分はルールを破ってもらうことにする。おまえは日本のルールを破って長々と説明したから、自分は西洋のルールを破ってこれをもらうことにする」と言いました。

お互いにルールを破っているのだけれど、破ることにちゃんと理屈があり、ここまできちんと話し合いをしていると、あとであまり問題が起こらない、それは「非常に面白いことだ」と、隼雄さんは語っています。

 

アメリカ留学を終えた著者は、さらにスイスのユング研究所で、日本人として初めてユング派分析家の資格を得て帰国し、日本でカウンセリングを始めました。

まだカウンセリングにお金を払うなどと思っている人があまりいない時代だったので、最初は無料で始めたのだそうです。

無料でやってみて著者が感心したのは、カウンセリングを受ける人が必ずお歳暮を持ってくることでした。お世話になっているということをお歳暮によって示し、著者がそれをありがたく受け取ることによって、あまりベタベタになったり依存されたりするのではなく、2人の間に何か距離がとれたといいます。

 

「無料でもできるのか」と心配して手紙をくれたアメリカの友だちに、隼雄さんは答えました。

「日本では無料でするけれども、お歳暮というものをもらうのだ」

「ああ、なるほどな。それは面白いシステムだな。いったいおまえは何をもらったのか」

「大根とか人参とかをもらった」と言うと、アメリカ人がむちゃくちゃ喜んでいました。そこで日本的なかたちがつきます。

 

おもしろいエピソードを交えながらも、主題であるカウンセリングについての実際的な話が、正面から語られていました。

カウンセラーにとって大切な「開かれた態度」──理解をあせらず、カウンセラー自身の倫理観を括弧に入れてしばらく脇に置き、「どんな話であれ聞きましょう」「私も一緒に深いところまで下りていく」という態度──を身につけるには、長い修練が必要だと言います。

 

「悩んでいる」ことが強いのです。悩んでいる人は何とかしようという力をもっているし、何とかしようという意欲をもっている。

という言葉が、とても印象的でした。

闇の向こうに光を見ているような、河合隼雄さんの言葉にはいつも勇気づけられます。

 

 

感謝の花束からネット銀行まで

 

昨年の4月から受講していた2023年度のフォーカシング・クラスが、先月無事に終了しました。

初めての逐語記録検討や、学生時代以来数十年ぶりのレポート課題など、なかなか大変でしたが、その分とても充実した1年を送ることができました。クラスでは、継続して何年も学んでいらっしゃる方と、私のように今回が初めてという受講生が4:3くらいの割合だったので、フォーカシングの大切な要素である「相互作用」も大いに働いていたと思います。

 

クラスもあと1回を残すだけという時期に、受講生のお一人が「先生に感謝の花束を贈りませんか?」とご提案くださり、その後のお取りまとめまで引き受けてくださいました。おかげさまで、感謝の気持ちを美しいフラワーアレンジメントで表すことができたのです。

 

感謝のフラワーアレンジメント

 

さて、フラワーアレンジメントの代金を集めるにあたり、メンバーそれぞれが振込手数料を負担しなければならないことを、お取りまとめ役の方は心苦しく感じていらっしゃるご様子でした。

そこで思い出したのが、ちょうどその頃、食事会で同席した人から教わった「ことら送金」のことです。

ことら送金とは、みずほ銀行三菱UFJ銀行三井住友銀行など都市銀行5行が2021年に設立した「株式会社ことら」の提供する「個人間少額送金サービス」です。個人から個人への10万円以下の送金であれば、手数料がかかりません。

スマートフォンを使った送金になりますが、「ことら送金」という単独のアプリがあるわけではなく、銀行の送金・決済アプリ(日本電子決済推進機構のBank Pay、みずほ銀行のJ-coin Pay、三井住友銀行アプリなど)のなかに、一機能として搭載されているのです。

 

食事会で話を聞いたときは、「ふーん、そんなサービスがあるのか…」程度の熱量だったのですが、実際に活用できる機会が訪れたとなると、俄然やる気が出て、メインに使っている銀行のアプリをダウンロードして登録しました。

お取りまとめ役の方にも、「フラワーアレンジメント代の振り込みは、手数料がかからない送金サービスを利用するので大丈夫です」とお伝えできました。いいタイミングでいい情報をもらえたわけです。

 

ところでこのことら送金、今後はワークショップなどの振り込みにも使える!と喜んでいたのですが、大きな落とし穴がありました(笑)。「個人間」のサービスなので、主催者が個人名義ではない場合、利用できないのです。

そこで、他に振込手数料が無料になる方法はないものかと検索すると、ネット銀行ならそういう特典があるらしい──。

ここ数年、仕事上では目にする機会が増えたネット銀行ですが、自分とは無縁の存在という感覚でした。しかし、かくなる上は…ということで、SBI新生銀行に口座開設の申し込みをしました。

数あるネット銀行のなかからSBI新生銀行を選んだ決め手は、アナログネイティブにも親切そうだったから。Web上で完結する手続きは確かに便利ですが、「自撮り画像で本人確認」は心理的にハードルが高く、書類を郵送という方法も同等に選択できる点がよかったからです。

 

他行への振り込みは月に最低1回以上、コンビニATMなどでの入出金は月に最低4回以上というように、手数料が無料になる回数はステージによって変わりますが、私にとっては十分な頻度です。さらに現金3,000円プレゼントのウエルカムプログラムというものもあり、プチわらしべ長者気分になれました。

アプリの登録、本人確認、口座開設申し込みなど、面倒に感じる作業も多く、何もなければ二の足を踏むところでしたが、必要に迫られたおかげでやり遂げることができました。節約した手数料は、自分が好きなことに使いたいと思います。

感謝の花束を提案してくださったことに、あらためて感謝です。

 

「カモノハシの人」が書いた本

 

もう去年のことになりますが、ラジオ番組のコーナーで、オーストラリア以外では出会えない希少な生き物「カモノハシ」についていろいろなお話を聴きました。にわかに興味がわき、もう少し詳しく知りたくなって検索してみると、カモノハシをこよなく愛する研究者の著書『カモノハシの博物誌~ふしぎな哺乳類の進化と発見の物語』(浅原 正和・著/技術評論社 2020/7)がまっ先に挙がってきました。

 

 

著者の浅原正和さんとカモノハシとの出会いは小学校低学年の頃、科学雑誌ニュートン』の誌上だったそうです。

私は、ある摩訶不思議な生き物のイラストにおどろきました。くちばしがあって、毛皮ももっていて、みずかきがある。このような生き物がいるのかと、そのエキゾチックな外観に心を奪われました。それだけではありません。なんと、その生き物は哺乳類なのに卵を産むと書いてあります。なんと不思議な生き物だろうか! それが私とカモノハシとの出会いでした。子ども心にカモノハシの印象は深く刻まれ、自分なりのカモノハシのキャラクターを描くようになり、高校生の頃にはカモノハシのマンガを描いていました。以来、カモノハシ好きを公言してくらしてきたのでした。

 

カモノハシのユニーク・ポイントをまとめると、こんな感じです。↓↓↓

カモノハシ(画:フリーカットさん)

 

①くちばし:トレードマークともいえるカモのようなくちばし。しかし鳥類のくちばしとは違い、やわらかい肉質のもので中には骨が通っている。感覚器官としての機能があり、触覚や電気感覚がある。

 

②口:餌を蓄える頬袋がある。カモノハシの成体には歯がなく、食べ物はつめと同じ素材でできた「角質板」ですりつぶす。子どもの頃には痕跡的な臼歯があるが、成長とともに抜け落ちる。

 

③前足:みずかきは指よりも前に広がっている。歩くときは折りたたんでクッションにする。前足で土を掘るのでつめの先は丸い。カモノハシの泳ぎは、その他の半水棲の哺乳類と異なり、クロールのように主に前脚で推進力を得ている。

 

④卵巣:多くの鳥類と同じく右側は未発達。卵は一度に2つ産むことが多く、その大きさは17ミリくらいで、やわらかくぶよぶよしている。母親は巣穴の中で丸まって卵を抱きかかえて温め、子どもが生まれると授乳して育てる。なお、カモノハシには乳頭(乳首)がないので、子どもは母親のおなかに汗のように染みだしてくるピンクから白色のミルクをなめて育つ。

 

⑤後ろ足&けづめ:みずかきは前足より小さく、つめはよりとがっている。オスは後ろ足のかかとにけづめ(蹴爪)をもつ。けづめは毒腺につながっており、オス同士の争いに用いる。毒をもつ哺乳類はとても珍しく、知られているのはカモノハシとトガリネズミの仲間だけ。メスも子どもの頃にはけづめがあるが、成長とともに抜け落ちる。

 

⑥総排出孔:ふん、尿、卵の通り道は体内で合流したあと、同じ孔(総排出孔)で体外へ出す。このような総排出孔をもつのは、鳥類や爬虫類、両生類、魚類と共通する特徴。

 

⑦尾:泳ぐときは方向安定板の役割をはたす。尻尾を丸めて、その中に草を挟んで巣まで運ぶこともする。脂肪を蓄える場所でもある。ちなみに、子育て期間を終えた母親の尻尾は、蓄えた脂肪が大きく減少している。

 

⑧毛皮:水の中を泳ぐため、撥水性と保湿力の高い緻密な毛でおおわれている。かつては毛皮を目当てに狩猟された。

 

カモノハシは視覚・聴覚・嗅覚ともにあまり強くなく、水中では目も耳も鼻の孔も閉じています。では、何をたよりにエサを探しているのかというと、くちばしに鋭敏な感覚器を持っているのです。

くちばしの表面にたくさん開いている毛穴のような小さな穴が、レセプター(受容器)となっており、水流や水圧などから周りに何があるかを知覚し、さらに、獲物が発する微弱な電流をキャッチして、その場所を探知できることが明らかになっています。

極めて高感度の電気センサーというわけで、まさにカモノハシの「第六感」です。

 

カモノハシが電気を感じることが明らかになったのは、電気刺激を感じる魚類を研究していたドイツの研究者が、カモノハシのくちばしにあった感覚器官の構造が魚類の電気受容器に似ていることに気づいたことからでした。最初の実験として、カモノハシを飼育していた水槽に1.5ボルトの乾電池を落としてみることが行われました。すると、水槽にいたカモノハシはひどく興奮し、乾電池に興味をもって、周りを泳ぎ回ったそうです。

実験の様子が目に浮かぶようです。魚類の研究者によって発見されるというところにも、カモノハシらしいハイブリットさを感じました。

 

カモノハシ大好きな子供が、やがて「カモノハシを含む哺乳類の歯や頭骨の形態進化」の研究者となられたのですから、それはとても幸福なことだと思えます。

けれど現実には、プロの研究者といえども、好きなことだけを研究して日々が完結するわけではなく、自分の研究以上に、さまざまな公共のための仕事を負担しなければならないようです。

著者の浅原さんは、膨大な仕事を目いっぱい詰めこんで活動していた時期、過労のため「生まれて初めて死を意識するような体の不調」に遭遇されました。倒れた瞬間に、もうこの世にいない祖父や親類、昔飼っていた犬たち、家族、当時の交際相手などが次々に思い出されたといいますから、臨死体験に近い状態だったのかもしれません。

そのとき、倒れこんだ視線の先に、カモノハシのぬいぐるみがいました。

自分が心血を注いできたカモノハシの研究を進めたい、論文を出版したい、と心の底から願ったそうです。

 

幸いにも体の不調から回復した浅原さんは、体を大事にしつつも研究にエネルギーを注ぎ、その年のうちに10本の論文を通しました。

本の中でも紹介されている「カモノハシが歯を失った話」の論文は、咀嚼をするにも関わらず歯を失った唯一の哺乳類であるカモノハシの謎を解き明かすものです。

1000万年前の化石カモノハシ(オブドゥロドン)と現生のカモノハシの頭骨形態を比較研究した結果、くちばしの感覚器官(電気感覚等)の発達とともに、その感覚を伝えるために太くなった神経が、歯根の収まるスペースを奪ってしまったため歯が失われたという結論に至っています。日本・オーストラリア・アメリカ合衆国の研究者たちと共同で発表されたこの論文は、Science誌に研究紹介記事が載り、世界5か国で報道されました。

 

幼い頃からずっとカモノハシが好きでしたし、知り合いの中では「カモノハシの人」として知られていましたが、ようやく社会の中で正式に「カモノハシの人」になれたような気がします。

という言葉が胸に沁みます。

 

そして、本の後付けに載っている、たくさんのカモノハシのぬいぐるみの写真と、そこに添えられたキャプション「2020年6月 夜更けにカモノハシのぬいぐるみたちに囲まれながら」を読み、ほのぼのとあたたかい気持ちになりました。

 



新春マインドフルネス瞑想会

 

年明け1月6日「新春マインドフルネス瞑想会」に参加しました。

場所は清澄庭園内にある涼亭(りょうてい)という集会施設。東京都選定の歴史建造物に指定されている涼亭は、庭園内の池にせり出すようにして建てられた数寄屋造りの建物です。

 

清澄庭園 涼亭

 

昼間であれば、大泉水と一体となった眺望を楽しめる涼亭ですが、瞑想会の開始は夕方の5時過ぎだったので、灯された明かりが暗い水面に映って、また違う趣がありました。

 

夜の涼亭

 

会の主催者は、何度か通っている「お寺でマインドフルネス瞑想」の講師の方です。いつもより時間を長くとり、内容も盛りだくさんでした。

ラクセーションを意識した静坐瞑想で始まり、参加者の自己紹介やマインドフルネスについてのお話の後、呼吸瞑想、休憩をはさんでから、食べる瞑想、書く瞑想、感想のシェアといった流れです。

 

涼亭 室内のようす

(休憩時間のあいだに、食べる瞑想のためのミカンが配られました)

 

書く瞑想(ジャーナリング)は初めてでしたが、とてもおもしろかったです。

まずは、終えたばかりの食べる瞑想の感想を書きましたが、これがいい感じのウォーミングアップになりました。

続いて、新年にふさわしく、

「今年、達成したいこと」を書きます。

発表するわけではないので心のままに、2~3分ほどの時間で、思いつく限りどんどん書いていきます。

 

次は、「達成したいことを書いてみて、体に感じる感覚」

そして、「今、不安に思っていること」

続いて、「不安に思っていることを読み返したときの、体の反応」

 

ここまで書いたところで、いつも自分を優しく励ましてくれる「誰か」を思い浮かべます。それは、家族、友人、パートナーなど身近な人や、あるいはペットでも構いません。もしくは面識のない人物、たとえば、松岡修造さんのような応援キャラの有名人でもいいのです。

人物を設定したら、その相手にLINEのようなメッセージアプリで、

「今年、○○を達成したい」と伝えたとして、相手から返ってきた励ましの言葉を想像し、書き起こします。

次に「私は今、こんなことを不安に思っている」と伝え、相手からのメッセージを書き取ります。

 

私の場合、達成したいことへの励ましのメッセージは、

  • きみなら出来る
  • わたしがついている
  • 失敗しても大丈夫! そばにいる

不安なことに対するメッセージは、

  • 思っているほど ひどくない
  • いざとなったら 力になる
  • ひとりじゃない 助け合える

などなどでした。自分で想像したメッセージなのに、思いのほか胸に響き、じーんとして涙ぐみそうになりました(笑)。

「あと1分、あと20秒…」というように、残り時間をカウントされながら、集中して書いていたので、いつもとはちがう感覚になれたのかもしれません。場の力、同じ時を共有している人たちの力も働いたのでしょう。

 

先生の解説によれば、このようにして書いた内容を、時間が経ってから読み返すと、また新しい気づきがあるとのこと。なんだか楽しみです。

申し込もうかどうか迷った瞑想会ですが、参加してよかった!と帰り道にしみじみ思いました。

 

今年もよろしくお願いいたします。

 

うれしいプレゼント

 

今年、職場のIさんがご家族と家庭菜園を始められ、収穫されたばかりの野菜をいただく機会がたびたびありました。普段は限られたレパートリーのルーティンで自炊している私にとって、毎回うれしいサプライズプレゼントでした。

 

最初にいただいたのは、ナスと辛くない品種のししとう

ラタトゥイユ風にトマトソースで煮込みました。

 

ナスとししとうのトマトソース煮 2023/07

 

その後も「間引きニンジン」という、いわばヤングコーンのニンジン版で、葉っぱがふさふさとついたかわいいミニ・ニンジンや、長ーいナス、カラフルなミニトマトなど、目にも楽しいさまざまな野菜をいただきました。

そして、ピーマン。

一見ししとうのような細長い品種、丸っこいフォルムの品種などの詰め合わせが、あまりに愛らしくて、仕事そっちのけで、素材を活かしたシンプルレシピをネット検索した結果、見つけたのがこちらです。

 

bazurecipe.com

 

料理研究家リュウジさんの「丸ごとピーマンのおひたし」。

ピーマンを丸ごと耐熱容器に並べて、酒大さじ1杯をふりかけ、ふわっとラップをして電子レンジでチンするだけ。かつお節とめんつゆの味つけで、タネやヘタまで食べられます。おいしさと調理の簡単さに感嘆して、Iさんにレシピを渡したら、たいへん喜ばれました。

しかし、ひとつだけ注意点があります。

レンジ加熱が終わった後、早めに取り出さないと、ふんわりかけたはずのラップがピッチリ張りついて、せっかくのかわいいピーマンがぺっしゃんこになってしまうのです。

 

ぺっしゃんこピーマン 2023/10

 

実りの秋には、里芋や大根をいただきました。

里芋のなかには、大きな種芋も入っていて、調理法を調べると「バターしょうゆ炒め」がよさそうなので作ってみました。

里芋の皮は、ぐるりと切り目を入れてから、ラップしてレンチンすると、手で容易にむけます。熱いのでキッチンペーパーで包むようにしてむきました。

「バターしょうゆ炒め」ではありますが、最初はオリーブオイルなどで炒め、バターとしょうゆは仕上げに加えます。

 

大野里芋のバターしょうゆ炒め 2023/10

 

この里芋は「大野芋」というブランド品種と聞きましたが、今まで食べたなかでいちばんおいしい里芋でした。

 

大根はやわらかい皮ごと切って炊き込みごはんにしました。みずみずしい大根の葉を、山盛りでトッピングして──。

 

大根の炊き込みごはん 2023/11

 

この記事を書いているあいだにも、立派に育った甘いニンジンや、まるで茎が長いブロッコリー?というハイブリッド野菜「スティックセニョール」などをいただきました。

 

スティックセニョール

 

ニンジンは、丸ごとのせて炊飯するだけという「丸ごとニンジン炊き込みごはん」にしようと思っています。

 

おかげさまで、今年は健康的で彩り豊かな食卓につくことができました。

野菜を受けとるたびに感じたのですが、収穫されたなかでも特に良いものを、きれいに土を拭い、あるいは洗ったうえで、きちんとラッピングして手渡してくださることが、美しいな、ありがたいな、と心に沁みました。

 

Iさんに感謝の気持ちを表したい、でも、いかにも「お返し」というのはなんですから、クリスマスに焼き菓子のギフトボックスを贈ろうと思いました。

かわいいカードを添えて…と考えていたら、相互読者のりおさん(id:ballooonさん)がすてきなイラストを描いていらっしゃったので、それとなく(笑)お願いしたところ、とても快くOKしてくださいました。

りおさん、ありがとうございます。

 

from-the-sky.hatenablog.com

 

プリントしたこちらのカード⤵

 

サンタきんちゃ君のクリスマスカード(絵:マサキリオさん)

 

イラストに合わせてカットし、裏面にメッセージを書きました。

Iさんにおかれましては、「きゃー、かわいい♡」と喜んでくださり、とてもうれしかったです。

 

 

ワトソン先生のファッション・チェック

 

YouTubeシャーロック・ホームズシリーズを朗読しているチャンネルを見つけ、毎日のように聴いています。

 


www.youtube.com

 

昔、本で読んだときは、会話やストーリーに気を取られていましたが、あらためて耳で聴いてみて、描写力のすばらしさにも気づきました。

ホームズとワトソンが活躍していたのは、主に19世紀末のヴィクトリア朝で、馬車・ガス灯・電報の時代です(日本では明治時代)。具体的で生き生きとした情景や人物の描写を聴いていると、百年の時を越えて物語の世界に引き込まれます。

 

服装についての細やかな文章も趣深いです。

赤毛連盟』に登場するのは、頭髪が燃えるように赤いウィルソン氏。でっぷりとした赤ら顔の紳士で、「どこをどうしても、ごく一般的なイギリス英国商人である」ということですが、その服装は━━

  • ややだぶついた灰色のシェパード・チェック(格子柄)のズボン。
  • くたびれた感じの黒いフロックコート(※)
  • 淡い褐色のベストから、太い真鍮製のアルバート型時計鎖が垂れ下がっていて、先には四角く穴のあいた金属の小片が装飾品として付いている。
  • すり切れたシルクハット。
  • しわだらけのビロードの襟が付いた、くすんだ褐色のオーバーが隣の椅子に置かれている。

(※フロックコートは着丈がひざまである、伝統的な昼の正装用上着

 

シャーロック・ホームズ作品のほとんどが『ストランド・マガジン』というイギリスの月刊誌に掲載されたものですが、当時の挿絵(シドニー・パジェット画)には、ウィルソン氏の姿が同時代のリアルさで描かれています。

 

ミスター・ジェイベス・ウィルソン/シドニー・パジェット画

 

ウィルソン氏と対照的なのは『独身の貴族』の依頼人、ロバート・セント・サイモン卿です。

教養あふれる青白い顔で、鼻は高く、口元には怒りっぽそうなところがあり、しっかりと見開いた目に「常に命令し従わせてきた人」らしさを感じさせる人物です。ファッションも洗練されたものでした。

  • ツバのカールした帽子。
  • 高い襟、黒のフロックコート、白いベスト。
  • 黄色の手袋
  • エナメルの靴、明るい色のゲートル。
  • 右手の紐から下がる金縁の眼鏡を揺らしている。

 

ロバート・セント・サイモン卿/シドニー・パジェット画

 

「さて、ワトソン、女性は君の専門だろ?(笑)」

『第二の汚点』の中で、ホームズが(笑いながら)言っているだけあって、ワトソンは女性のファッションにも鋭く繊細な目を向けています。

『花婿の正体』では、ミス・メアリー・サザーランドの帽子に強い印象を受けた様子でした。

  • 立派な毛皮のボア生地のストール。
  • カールした大きな赤い羽根飾りの付いたつば広の帽子を、色っぽいデボンシャー侯爵夫人風(※)に片方に傾けている。

(※デボンシャー侯爵夫人は、18世紀後半のロンドン社交界の花形で、美貌とファッション・センスで有名だった)

 

ミス・サザーランドのファッションに対して「大げさな装い」とか「馬鹿げた帽子」などと、ちょっと辛口なコメントもしているワトソンですが、彼女の純粋な信念には崇高さを感じて敬意を払っています。

 

ミス・メアリー・サザーランド/シドニー・パジェット画

 


ワトソンが最も賛辞を呈した女性といえば、『四つの署名』に登場するミス・メアリー・モーストンではないでしょうか。

 

 

ミス・メアリー・モーストンは、とても落ち着いた態度で登場します。

小柄で品のよいブロンドの女性で、きちんと手袋をし、服装の趣味も申し分ないのですが、その服は質素で控えめなもので、あまり生活が楽そうには見えなかったようです。

  • 飾りもひだもついていない、地味な灰色がかったベージュのドレス。
  • 同じように目立たない小さなターバン(つばのない、ぴったりした婦人用帽子)
  • 帽子の脇に挿したささやかな白い羽根が、わずかに明るさを添えいている。

 

しかし、ワトソンが注目したのは、ファッションだけではありません。

 特に整った顔だちというわけでも、肌がきれいだというわけでもないが、愛嬌のあるかわいらしい表情に、大きな青い瞳が気高さとやさしさをたたえている。三つの大陸でさまざまな国の女性を見てきたわたしだが、これほど品のよさと感受性の豊かさをきれいに映し出した顔にお目にかかったことはない。

『四つの署名』光文社文庫 A・C・ドイル/著 日暮雅通/訳 

 

ミス・メアリー・モーストン/Richard Gutschmidt画

 

以下は、ちょっとネタバレになりますが──、

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ワトソンはこちらのミス・モーストンと結婚することになるのですが、やはり好きになる決定打は内側からにじみ出る美しさだったのかなぁ…と想像すると、微笑ましいというか、何となくニヤニヤしてしまいます。

こういう「ニヤニヤ」ポイントを数多く見つけられるのも、シャーロック・ホームズシリーズの大きな魅力のひとつです。

 

サー・アーサー・コナン・ドイル