魔法帖
晶太が学校帰りに、銀ひげ師匠の書道教室へ行くと、ついさっきまで誰かいたらしい気配があった。 (今日は定休日だけれど、たまに個人指導を引き受けているみたいだから、その生徒さんかな?) と思ったが、そうではないようだ。 ほくほくした顔で振りむいた…
連休明け、晶太が銀ひげ師匠の書道教室へ行くと、顔を合わせるなり聞かれた。 「どうした? 目の下にクマができてるじゃないか」 「寝不足です。3日連続で変な夢を見てるから」 「ほう、どんな夢なんだい?」 とにかく、やたらに暗闇がせまってくる夢だ。 …
晶太が住む町の神社では、毎年6月の下旬になると、境内に茅の輪(ちのわ)が設置される。チガヤという草を束ねて作った、直径が3メートルくらいある大きな輪だ。これをくぐることで、身についた穢れが祓い清められ、疫病をまぬがれるのだという。 けれど今…
晶太が書道教室へ行くと、銀ひげ師匠はお昼ごはんのサンドイッチを作っているところだった。 師匠は魔法使いだけれど、ごはんはふつうに手作りする。レパートリーは限られていて、サンドイッチといえば、トマトと卵のサンドイッチだ。 晶太は魔法と書道、両…
toikimi.hateblo.jp (こちらの掌編に出てきた泰一郎君が、少しだけ再登場します) 銀ひげ師匠の職業は書道の先生だが、本業は魔法使い、晶太はその弟子である。特に公表はしていない。 けれど、書道教室に通う泰一郎君が、小耳にはさんだ噂話を真に受けて、…
銀ひげ師匠の書道教室は定休日だったけれど、晶太は書道だけではなく、魔法の弟子でもあるので、修行は休まずに続ける。 入り口の引き戸を開けると、師匠が玄関まで来て、 「ちょっと出掛けてくるよ、すぐ戻るからね」 と言い、入れ違いに出て行った。 とこ…
銀ひげ師匠の書道教室に通って来ている泰一郎君が、弟子入りを志願したそうだ。 師匠からそのことを聞いて、晶太は驚いた。 「どっちの弟子ですか?」 「それがな、書道ではなく魔法の方なんだ。他の生徒さんたちが話しているのを耳に挟んで、私が魔法使いだ…
銀ひげ師匠の「妹弟子」という人が、書道教室を訪ねてきた。 名前は、ちとせさん。 書道の妹弟子ではなく、魔法の妹弟子なので、つまり魔女だ。 どことなく、晶太が小さいころから知っている看護師さんに似ている。注射が上手で、いつもゆったり構えているそ…
魔法使いの銀ひげ師匠は、書道教室の先生でもあるので、 ときには、額装や掛け軸にするための「書」も頼まれる。 4年前の書道作品を持って訪ねてきたのは、真新しいスーツ姿の、小網さんという人で、お祖母さんからの贈り物だったそうだ。 挨拶が済み、小網…
晶太がいつものように、銀ひげ師匠の書道教室へ行くと、ちょうどお客さんが帰るところだった。 このあいだスケアクロウのことで相談にのった、ゆなちゃんのお祖母さんが、若い女の人を連れている。ゆなちゃんと仲良しのつぐみちゃんのお母さんで、容子さんと…
銀ひげ師匠の書道教室で最年少のゆなちゃんから、相談事があった。 「話を聞いたかぎりでは、どうも魔法がらみに思える。それより気になるのが、なぜ私に、この手の相談を持ちかけてきたか、ということなんだが……」 「ひょっとして、師匠の正体を見抜いたと…
MNJの自然災害対策行動に初参加して1ヶ月あまり、ようやく帰ってきた銀ひげ師匠の様子は変わりはてていた。 ひげは伸び放題でボサボサ、顔も手も日に焼けて、小さな傷や虫刺されの跡がいくつも見える。 (こんなんで明日からの書道教室、だいじょうぶだろう…
toikimi.hateblo.jp 銀ひげ師匠が『魔法使いネットワーク・ジャパン(MNJ)』の自然災害対策行動に参加しているあいだ、晶太は影武者たちと一緒に留守番していた。 「灰一」と「紺二」は、師匠が影武者の魔法をかけた作務衣で、洗濯のため2日ごとに交替する…
【連作掌編の第3話です】 toikimi.hateblo.jp 銀ひげ師匠のところに、初めて、『魔法使いネットワーク・ジャパン(MNJ)』から、自然災害対策行動のお知らせが来た。 群れることを好まない魔法使いたちも、たまに集うのは歓迎するみたいだ。 師匠は感無量で…
【前回の掌編の続きです】 toikimi.hateblo.jp 晶太が銀ひげ師匠の弟子になり、魔法の修行を始めてから半年経った。 師匠の営む書道教室に通いつめ、基本の魔法「見えずの墨」を会得したときのことは忘れられない。 一意専心で磨り終えた墨に向かい、口伝え…
晶太が通い始めた書道教室は、墨汁と筆ペンを使わない方針のせいか、あまり流行っていなかった。 学童クラスはさっぱりだが、成人クラスの継続的な「生徒さん」たちのおかげで成り立っているのだ、と師匠は言っている。 祝儀袋や不祝儀袋に書く名前くらいは…