かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

2018-01-01から1年間の記事一覧

自由研究(創作掌編)~銀ひげ師匠の魔法帖②~

【前回の掌編の続きです】 toikimi.hateblo.jp 晶太が銀ひげ師匠の弟子になり、魔法の修行を始めてから半年経った。 師匠の営む書道教室に通いつめ、基本の魔法「見えずの墨」を会得したときのことは忘れられない。 一意専心で磨り終えた墨に向かい、口伝え…

スギライト(杉石)

スギライト(杉石)は、癒しと浄化の力がとても強いパワーストーンとして有名です。 ラリマー、チャロアイトと共に「世界三大ヒーリングストーン」というキャッチフレーズがついていますが、今のところはまだ、日本のみで通用している「世界三大」のようです…

最初で最後の弟子(創作掌編)

晶太が通い始めた書道教室は、墨汁と筆ペンを使わない方針のせいか、あまり流行っていなかった。 学童クラスはさっぱりだが、成人クラスの継続的な「生徒さん」たちのおかげで成り立っているのだ、と師匠は言っている。 祝儀袋や不祝儀袋に書く名前くらいは…

紫色を好きになった理由

紫色が好きです。 黄緑も好きで、紫とは同率1位くらいでしょうか。 偶然なのか必然なのか、私が読者登録をさせていただいている方たちのうち、紫色好きを表明されているのは、ひとりやふたりではありません。 Emily (id:Emily-Ryu)さん のぞみュー (id:nozo…

「薔薇は薔薇であり、薔薇であり、薔薇である」

A rose is a rose is a rose is a rose. 薔薇は薔薇であり、薔薇であり、薔薇である。 アメリカ合衆国の詩人ガートルード・スタイン(1874.2.3~1946.7.27)の言葉です。 ゲシュタルト療法の創設者フレデリック・パールズの弟子で、1985年に来日し指導・…

山里町の恵み(創作掌編)

陽一は営業部長のお供として、クライアントと会食することになった。 本来なら、研究開発チームのリーダーが行くはずだったのに、突然のぎっくり腰で、若手にお鉢が回ってきたのだ。 連れて行かれたのは、本格的な日本料理の店で、道路から入り口までの間が…

『クリミナル・マインド』の格言

『クリミナル・マインド FBI行動分析課』は、2005年秋に始まったアメリカのテレビドラマで、現在はシーズン13が米CBSネットワークで放送中とのことです。 FBIの行動分析課(BAU)に所属するプロファイラーがチームを組み、シリアルキラーなどの特殊犯罪を捜…

ハヤさんの昔語り〔完〕~再会~(創作掌編)

ハヤさんの店は珈琲の専門店なので、フードメニューに載っているのはトーストとゆで卵だけだった。 それでも、午後になると「本日の焼き菓子」なるものが現れ、私はよくコーヒーと一緒に注文している。 ある日、店に入ろうとして、その焼き菓子を納品してい…

漂流の「作法」

ニッポン人異国漂流記 作者: 小林茂文 出版社/メーカー: 小学館 発売日: 1999/12 メディア: ハードカバー 購入: 1人 クリック: 1回 この商品を含むブログを見る 以前、作家の吉村昭さんのエッセイで、 『鎖国』していた日本には海洋文学がないと言われるが、…

ハヤさんの昔語り〔四〕~かくし味~(創作掌編)

行きつけの珈琲店で、店主のハヤさんと雑談をしているうち、話題が「おふくろの味」になった。 「すいとん、という料理をご存知ですか?」 「もちろん。子供のころ、よく母が作ってくれましたね。休みの日のお昼ごはんに食べることが多かったかな」 作るのを…

石の名前と言い伝え

天然石、いわゆるパワーストーンに凝っていた時期があります。 ネットショップでビーズ等を購入し、ブログや書籍で情報を集め、鉱物図鑑を愛読するなど、「石三昧」な日々を送っていました。 記憶力の衰えを痛感するようになって久しいというのに、数年前に…

ハヤさんの昔語り〔三〕~石工になった長太郎~(創作掌編)

人から聞いたばかりの「セレンディピティ」という言葉を、受け売りで解説し始めると、 「舌をかみそうな言葉ですね」 カウンターの向こうでコーヒーを淹れながら、店主のハヤさんが言った。 セレンディピティは、18世紀のイギリスの作家ウォルポールの造語…

父が少年だった頃

父が亡くなるひと月ほど前のことです。 私は、布団に横たわる父のそばに居て、テレビでも見ていたのだと思います。 どういうきっかけだったのか、父が思い出話を始めました。 少年の頃、1人で自転車に乗って遠出した話でした。 塩の効いたおにぎりと水筒を…

ベール(創作掌編)

ついさっき結婚を約束したばかりの僕と初音は、降りしきる雨のなかを歩いていた。 (あれ、いったい僕たちは、どこへ行こうとしているんだろう?) 傘を打つ雨音で、ふと我に返る。 フレンチレストランでプロポーズして、初音が承諾してくれたあと、極度の緊…

雨の日にながめる川、数えたカエル

今週のお題「雨の日の過ごし方」 何度か引っ越していますが、いつも近所には川がありました。 さらさら流れる小川ではなく、車道と歩道に分かれた道路橋から見おろす川です。 現在も毎日のように、橋を渡って通勤しています。 雨の日にながめる川には、趣が…

ハヤさんの昔語り〔二〕~ザシキワラシ~(創作掌編)

にぎやかな6名様が、財布を取り出し立ちあがるのを見て、私はほっとした。これでようやく、ハヤさんの昔語りを聞けるというものだ。 テーブルの片付けが済んだ頃合いを見計らって、コーヒーのお替りをオーダーする。 「ハヤさん、このあいだ聞かせてもらっ…

日々のゲシュタルト

ゲシュタルト療法のワークを体験学習しているとき、たとえば「ことばの言い換え」のような、ちょっとした実践を、よくファシリテーターに提案されました。 ワーク中に繰り返しやっているうち、だんだん普段使いするようになって、習慣化してきたものが3つほ…

ハヤさんの昔語り~神隠し~(創作掌編)

在宅の仕事が一段落つくと、近所の珈琲店に出かけるのが、私の楽しみのひとつだった。なるべく空いてそうな時間帯を選んで行くことに決めている。 店主のハヤさんは、親しくなると面白い話を聞かせてくれるようになった。 何と言っても彼は、自分の前世を思…

『遠野物語』口語訳は原典への橋渡し

柳田國男さんの文章が好きなので、口語訳には関心が薄かったのですが、ラジオ番組で紹介されているのを聞き、読んでみたくなりました。 口語訳 遠野物語 (河出文庫) 作者: 柳田国男,小田富英,佐藤誠輔 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2014/07/08 メ…

星月夜の撮影会(創作掌編)

菫青館は、長年ホテル業界でキャリアを積んだ夫婦が、退職後に始めたペンションだった。料理とワインには定評があり、個性的なイベントが含まれた宿泊プランも用意されている。 ウェブサイトによると、オーナー夫妻の趣味はカメラで、2人とも「平賀源内」の…

エアコンから異音「ポンポン・ポコポコ」

今年の大型連休は、よく晴れて風の強い日が多かったように思います。 部屋でくつろいでいるとき、突然、つけていないエアコンから異音がしました。 「ポンポン」あるいは「ポコポコ」という音です。 けっこうな大きさで鳴り続いたので、休日のリラックスモー…

ゲシュタルト療法「蛇口のワーク」

2ヶ月ほど前「蛇口をさがしてみよう」という記事で、統御感(物事を自分でコントロールできるという感覚)について書きました。 一般に、ポジティブ・シンキングとは、コップに半分入った水を見て「もう半分しかない」と考えるのではなく、「まだ半分もある…

小鬼と話す方法(創作掌編)

※ ひとつ前の掌編『新しい家~New Home~』の続きになります。 バルコニーというものは、家の内と外を分ける境界のひとつだ。小鬼が住むのにちょうどいい場なのかもしれないと、紀久代は思った。 朝、窓を開け、さり気なく姿を見せてくれる小鬼に、 「おはよ…

新しい家~New Home~(創作掌編)

紀久代が引っ越してきたマンションの部屋には、ルーフバルコニーが付いていた。 とはいっても、その名から連想される高級なものではなく、建築基準法の斜線規制によって、建物の造りが途中から階段状なった結果、中途半端に広いバルコニーが出来てしまった、…

今こそ『時の娘』

スコットランド出身の推理作家ジョセフィン・テイの歴史ミステリ『時の娘』(1951年発表)は、時を超えて永く読まれ続ける名作中の名作です。 英国史の予備知識がなくても、物語として、知的エンタテインメントとして、心から楽しめる1冊。 時の娘 (ハヤカ…

あたたかな手(創作掌編)

朝、バス停まで歩く道の途中で、紗里は風変わりな洗濯物に気づいた。 2階のベランダに並んでいるのは、大きさといい形といい、料理用のミトンそっくりに見える。けれど、キッチングッズとして売っているようなカラフルなものではなく、色がすべてベージュ系…

ゲシュタルト『ルビンの杯』と其角

ゲシュタルト心理学の重要な概念のひとつに、『図』と『地』という考え方があります。 《figure and ground》 ある物が他の物を背景として全体の中から浮き上がって明瞭に知覚されるとき、前者を図といい、背景に退く物を地という。 小学館『デジタル大辞泉…

大人の水疱瘡は皮膚科

身内のKが、水疱瘡に罹りました。 仕事帰り体がだるくてしんどかったので、帰宅後に体温を測ったところ38度あり、てっきり風邪をひいたと思ったそうです。 腕にあせものような赤いぽつぽつが出ていたけれど、かゆみもないので気にとめていませんでした。…

お守り(創作掌編)

春香が庭先ですわっているところに、キクおばあさんが通りかかりました。 「春ちゃん、どうした? そんなにしょんぼりして」 「きのうの朝、おなかが痛くなって、病院にいったの。お薬のんだからなおってきたけれど、学校を休んじゃった」 小学校に入学した…

血圧計を買いました。

先日、春の定期健康診断を受診したところ、血圧で引っかかってしまいました。 若い頃は献血をことわられるくらい低血圧だったのが、加齢と共に徐々に上がってきて「普通」になった、と思っていたら──。 そういえば、1月に火事で救急搬送されたときも、 「血…