かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

2018-01-01から1年間の記事一覧

サイレン

職場も住んでいる所も交通量の多い町中にあるので、緊急車両のサイレンの音を聞かない日はありません。 「ピーポーピーポー(時々、ウーー!)」だったら救急車だし、 「ウー!ウー!ウー!(帰りは、カン、カン、カン)」は消防車、 「ウーー!」の繰り返し…

俳句はことばの娯楽『寝る前に読む 一句、二句。』

遠くない将来、定年退職して働かなくてもよくなったら、俳句を趣味としたいです。 あまり縁のなかった世界なので、少しずつ情報を集め始めました。 インターネット俳句会(ネット句会)というのもあり、扉はいろいろなところに存在しているようです。 そのう…

常夜灯(創作掌編)

幼い頃、星葉の部屋には小さなフクロウ型の常夜灯があった。 ドアの脇近く、コンセントに取りつけられたほのかな灯りは、暗闇の中で頼もしい見張り番だった。 夜中に目が覚めてしまったときは、フクロウにそっと話しかける。 「さみしい」 「こわい」 「いや…

葉桜の公園(創作掌編)

麻紀が勤務する会社は、4月で期が改まる。 所属している部署では、決算期前後の事務処理のため、3月半ばからの1ヶ月が年間を通して最も忙しかった。 連日の残業と休日出勤は当たり前。大量の伝票入力から専門的なデータ解析まで、業務を手分けして処理し…

ユニコーンの角 ~「普通がいい」という病~

「普通」とは、使い勝手の良い言葉だと思います。 平常であることの安心感や、主流派の心強さを表せます。どこか謙虚だけれど、卑下しているというほどではなく、時代や環境によって変わる幅広さも持っています。 その反面、否定的に使われると、急に表情が…

5番目のポケット(創作掌編)

ぼくの持ち主、明のウッドクラフト工房は、小さな工場や作業所が寄り集まっている町なかにあった。 ドアを入ってすぐわきの椅子の背に、仕事用のエプロンが掛かっている。 エプロンは丈夫な布地で出来ていて、寸法も、5つあるポケットの位置も、すべて明の…

ゲシュタルト療法「Why」より「How」

ゲシュタルト療法という心理療法を習っていました。 一緒にトレーニングコースを受講していたメンバーは、セラピストやカウンセラー、医療関連の仕事をしている人などが多かったです。 私の場合は個人的興味だけだったので、専門的なアドバンスコースに進む…

右近の桜(創作掌編)

『右近の桜』は、ソメイヨシノより少し遅れて咲きはじめる。八重咲きの花びらは、かすかに緑がかったクリーム色で、芯のところだけ、ほんのりとした薄紅だった。 渉が見つけた桜は、公園の目立たない片隅に植わっていた。 社会人となり、引っ越してきて間も…

桜つながり

桜の記事に画像を添えたいと思い、写真を撮りに行きました。 慣れない撮影を済ませて振り返ると、ちょっとした人だかりが出来ていたのでびっくり。あわててその場を離れました。 ちょうど、お昼の12時になるところです。 後から知ったのですが、桜の手前に…

冬に逆もどり(創作掌編)

春分の日も過ぎて、もう大丈夫と思っていた矢先だった。 「真冬のような寒さです。ところによっては雪が舞うかもしれません」とか、 「昨日との気温差は10度以上」など、気象情報の声がテレビからあふれてくる。 千佳は、冬のコートをクローゼットの奥から…

お彼岸 遠回りした思い出

母方の祖父は、私がものごころ付く前に他界しました。記憶に残っている面影は写真のものだけですが、母からよく話を聞いていたので近しく感じます。 祖父は石屋職人でした。近所の悪戯小僧を大声で叱り飛ばす一方、母にはとても優しかったそうです。 骨太で…

雲と遊ぶ(創作掌編)

晴天の日曜日、香澄は午後になってから、近くの河川敷へ出かけた。 都会の端を横切って流れる川は、再開発が進んで遊歩道も完備されている。けれど香澄は、少しだけ残った土手のほうが好きだった。 立ち枯れしている葦(ヨシ)の陰に座ると、日々のわずらわ…

蛇口をさがしてみよう

春の嵐で降り続いた雨が、明け方になってあがりはじめた、金曜日の朝のことです。 ベランダに面した窓を開けると、排水用の溝いっぱいに雨水が溜まっていました。 コンパクトなベランダなので、隅にある排水口はエアコン室外機の陰になってほとんど見えませ…

スロウメール(創作掌編)

年末は忙しすぎて、部屋の大掃除もままならなかった。 星葉が「一時的な書類保管箱」の整理に手をつけたのは、1月も半ばを過ぎてからのことだ。 この1年間に溜まった箱いっぱいの紙片や印刷物を、内容を確かめながら分類していく。ほとんどの書類は、必要…

5軒めで見つけた「ぬ」

ふとしたことから「午前(ごぜん)様」という言葉を思い出しました。 昔、父の帰宅が宴会などで夜中の12時過ぎになったとき、母が使っていた言葉です。 「心配していた。もう少し早く帰ってきてほしい」という気持ちを、やんわりと伝える言い方でした。 「…

庭木戸の音(創作掌編)

サトシの母親は、小鳥の声でその日の天気がわかるから、洗濯物を干したまま出かけても平気だった。人間以外のものたちと、少しだけ通じ合えるというのは、それほどめずらしいことではないらしい。 サトシ自身も、庭木戸が語りかけてくることばがわかる。だか…

ゲシュタルト療法「誕生のワーク」

私は出産予定日を過ぎて生まれた過期産児でした。 「明日、陣痛促進剤を使いましょう」と医師に言われたその日、夜になってから自然に陣痛が始まったそうです。 真夜中だったにもかかわらず、運よく医療スタッフは充実していて、逆子のため難しいお産ではあ…

クマ画伯(創作掌編)

クマ画伯のことは、何年か前まで、テレビでよく見かけた。 その素朴派の画風よりも、特異な経歴のほうに関心が集まっていたことを覚えている。 仔グマのときから画家をこころざし、絵を学びたい一心で、単身ふるさとの山を下りた。薪割りのアルバイトをしな…

音楽隊の音楽会

私が読者登録をさせていただいている「かぴたん」さん は、海上自衛隊東京音楽隊の歌姫、三宅由佳莉さんの大ファンです。 私は、かぴたんさんのブログで、初めて三宅さんのことを知ったのですが、記事を読み、紹介された動画を観るうちに、ぜひライブに行き…

アマノ荘の神さま(創作掌編)

満開の桜の下で、宴を開いている人たちの声がする。 木造2階建てアパートの敷地だった。板塀のすき間から、なごやかな雰囲気が伝わってくる。 「おめでとう」 「おめでとう」 祝福の声が、通りがかった美弥の耳にも届いた。 ゆっくりと歩き続けながら、美弥…

母と音楽

近々、演奏会へ行く予定なので、事前に発表されている楽曲を聴いて予習しています。 こういうとき、YouTubeはほんとうにありがたいですね。 予習曲のひとつ、バーンスタインの「シンフォニック・ダンス」(『ウエスト・サイド・ストーリー』より)を、母の好…

薬草園の匂い袋(創作掌編)

礼美のお祖母さんは、薬草園を営んでいる。 昔は薬草だけを育て、煎じ薬や軟膏にして売っていた。土地の人たちは、どこか体の具合が悪いと、まず薬草園にやってきたそうだ。 時代の流れと共に、扱うのは薬草よりハーブが多くなって、今では「薬草園」といっ…

ゲシュタルト療法 基本のキ「気づき」

ここ2年ほど学習中のゲシュタルト療法(「今、ここ」での気づきを重視する実践的な心理療法)において、大切な「気づき(awareness)」ですが、それがどういうものなのか、実はまだわかりません。 わかるのを待っていたら、いつまでたっても書けそうにない…

ぼくの鬼(創作掌編)

一郎にとって、冬は風邪の季節だ。 治ったかと思うとぶり返したり、次の風邪にかかったりするから、学校へ行くより家で寝こんでいる日のほうが多くなった。 一郎の風邪予防のため、毎年、春から秋までのあいだ、家族全員で取り組んでいた。 お父さんは、体質…

アーシュラ・K・ル・グィンさんを偲んで

最初に出会ったル・グィンさんの物語は『ゲド戦記』3部作で、その後「米SF界の女王」であることを知り、一連のSF作品を読んだ。 『ゲド戦記』と同じくらい心に残っているのが、『風の十二方位』という短編集だ。 風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF 399) 作…

五分(ごぶ)の夢 (創作掌編)

彫金の職人だった曾祖父が、ワタルの誕生を祝って作ったお守りがある。 干支のお守りだ。銀色の小さなヘビが、自分のしっぽの先に頭をのせて輪になっている様子が、ユーモラスでかわいい。けし粒ほどの目は、きらきらとしたオリーブグリーンの宝石だった。 …

逃げ遅れる50代女性

少し前のことです。 午前2時過ぎ、マンションの部屋に設置されている火災感知器が鳴りました。 就寝中だったので飛び起きると、警報音の合間に、「同じ階で火災が発生している」という音声も聞こえます。 あわてて内廊下をのぞいてみたところ、2つ先の部屋…

雪の朝(創作掌編)

「おにいちゃん、大雪だよ!」 といって、紗弥が起こしにきた。 窓の外が真っ白だった。毎年何度か降る雪とは、全然ちがう。 5歳になったばかりの紗弥には、初めての大雪だ。大きくみはった目が輝いている。 「見に行こうよ、今すぐ」 ふだんは聞き分けのい…

河合隼雄著『「出会い」の不思議』が開く扉

先月、河合隼雄さんについて記事を書いたとき、この『「出会い」の不思議』をまだ読んでいないことに気づき、タイトルにも引かれ、図書館から借りてきました。 「出会い」の不思議 作者: 河合隼雄 出版社/メーカー: 創元社 発売日: 2002/05 メディア: 単行本…

フラワーフレーク(創作掌編)

庭に咲く花を摘むことにあこがれて、翠は園芸を始めた。 土作りをした花壇に種や苗を植え、夢中で育てているうち、家じゅうに飾ってもありあまるほど、花があふれてきた。 それでも、次に咲かせたいと思う花は、尽きることがない。 友だちや知り合いにプレゼ…