かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

雨の日にながめる川、数えたカエル

今週のお題「雨の日の過ごし方」 

 

何度か引っ越していますが、いつも近所には川がありました。

さらさら流れる小川ではなく、車道と歩道に分かれた道路橋から見おろす川です。

現在も毎日のように、橋を渡って通勤しています。

 

雨の日にながめる川には、趣があります。

川面の波立ちと水の色が違う。雨量によっては水位も変わり、浮遊物が増えて、川の流れがいつもより速く見えます。音もきっと変化しているはずですが、車がひっきりなしに行き交っているため聞き取れません。

いつだったか、かなり大きな亀が浮かんでいるのを目撃したことがあります。泳いでいるのか、流されているのか、どちらともわかりにくいスピードで通り過ぎていきました。

 

雨の日の川は、普段より生き生きとして表情豊かですが、同時に、自然の荒々しさの片鱗をのぞかせているようでもあります。

 

さて、雨の日に生き生きするといえば、カエルです。

 

ひと昔前になりますが、数年間、通いで両親の介護をしていました。

平日は仕事帰りに寄り、週末は泊りがけで、あれこれお手伝いしに行きました。

両親の家から自宅までは、歩きで片道20数分でした。途中に幼稚園を併設した小学校があります。周辺はマンション群、公園、製作所や会社という区域です。

 

ある夜、その辺りを歩いていて、数匹のヒキガエル(ガマガエル)に遭遇しました。

歩道の上や植え込みの陰、小学校を囲むフェンスの土台あたりで発見したのです。

色は褐色系、大きさは15センチ前後といったところです。夜行性で昆虫などを食べるそうですが、私が見たときは、じっとうずくまっているか、のっそり歩いているかで、跳ねまわったりはしていませんでした。さほど恐れずにそばを通ることができたものの、鳥肌が立つ寸前くらいの、心理的抵抗感はありました。

ヒキガエルは有毒種ですが、毒の有無に関係なく触りたいとは思いません。

 

とはいえ、町なかの舗装道路でカエルを見つけたことは、ちょっとした珍事だったので、嬉々として話題にしました。

すると、介護を分担していた弟が、夜遅くなってからの一人歩きは心配だとの名目で、家まで送ってくれるようになりました。

かくして、春先から晩秋まで、夜な夜な、カエル・ウォッチングを続けたわけですが、ベストシーズンはやはり梅雨時です。

水域依存性の極めて低い、つまり水がなくてもけっこう大丈夫なヒキガエルといえども、雨が降ると実に嬉しそうでした。頭(こうべ)を高く上げて座り、いつもよりキビキビと動くので、うっかり蹴とばしてしまったりしないよう、注意して歩かなくてはなりませんでした。

 

その頃になると、見つけたカエルの数をカウントするようになっており、その数が、昨日より今日と増えていくことを楽しみにしていました。カエルが活動的になる雨の日は、期待も高まります。

カウント数を増やすため、とうとう、小学校の敷地内をフェンス越しにペンライトで照らして、カエルのすがたを探すまでになりました。さすがに、人目があるときは控えていましたが。

「不審者に見られてしまうかもねー」

ふたりで笑い合ったものです。

けれどついにあるとき、近所の住人らしき方たちから、すれ違いざま、

「ご苦労様です」

と、頭をさげられてしまいました。

防犯ボランティアのパトロールと間違われたのか、あるいは、さりげなくトラブル抑止の声掛けをされたのか……。

これを機に、ペンライトの使用は止めました。

 

振り返ってみれば、介護中は娯楽が少なかったため、カエルを数えることにあれほど熱中できたのでしょう。娯楽を制限されると、それまで思ってもみなかった楽しみを見つけ出すものなのかもしれません。

 

 

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