かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

新作帖

魔女のおにぎり(掌編創作)~最初で最後の弟子⑨~

銀ひげ師匠の「妹弟子」という人が、書道教室を訪ねてきた。 名前は、ちとせさん。 書道の妹弟子ではなく、魔法の妹弟子なので、つまり魔女だ。 どことなく、晶太が小さいころから知っている看護師さんに似ている。注射が上手で、いつもゆったり構えているそ…

火点し~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑥~(創作掌編)

ハヤさんの珈琲店には、店名の入った小さな看板があり、外が暗くなるとLEDの灯がともる。 タイムスイッチによる自動点灯で、徐々に日没が早くなる時期には、すぐ気づいてタイマーの設定時刻を変えるのだが、日が長くなる場合は忘れがちだった。 「まだ日が暮…

アゲハ(創作掌編)

私たちアゲハの体のなかには、「らせんの教科書」というものが備わっていて、いつ何をどうすればいいか、自然にわかるようになっている。 卵に穴を空けて外に出るタイミングも、ひと休みしてから卵の殻を食べることも、その都度「らせんの教科書」に教わった…

ヒーローの任命式(創作掌編)

和弘にとって美里市民会館は、歴史的建造物と呼びたいくらい特別だ。 祖父も、父も、ここで結婚式を挙げた。 そして今日、市民会館の大ホールで、忘れかけていた子供の頃の夢が叶い、和弘はヒーローに任命されるのだ。 『ミサト・ガーディアン』は、50年近…

マスカレード(創作掌編)

僕は無個性な社会人だが、仮面の制作という少し変わった趣味を持っている。 「ベネチアンマスク」と呼ばれる、中世ヨーロッパの仮面舞踏会やカーニバルで使われていた、顔の上半分を覆うハーフマスクを作るのが好きなのだ。 あるとき、完成した作品を並べて…

ミミズの凱旋(掌編創作)~最初で最後の弟子⑧~

魔法使いの銀ひげ師匠は、書道教室の先生でもあるので、 ときには、額装や掛け軸にするための「書」も頼まれる。 4年前の書道作品を持って訪ねてきたのは、真新しいスーツ姿の、小網さんという人で、お祖母さんからの贈り物だったそうだ。 挨拶が済み、小網…

金魚の想い(創作掌編)

「コイじゃないのか?」 「違います、コイじゃありません」 昼休憩から戻ってきた男性社員2人が、声高にしゃべっている。となりの部署の課長と、その部下の江戸川さんだ。 (恋?) 優海は思わず、耳をそばだてた。 「でも、あの大きさはどう見てもコイ、紅…

ウチガミさま~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑤~(創作掌編)

ハヤさんの珈琲店では、2月限定のホットチョコレートが、隠れた人気メニューになっている。 「ちょっとした贅沢を味わえる」 と、普段はブラックコーヒー派のお得意様に大好評なのだ。 ホットチョコレートは、駅前の洋菓子店でパティシエをしている妹さんか…

オリジナルマジック(創作掌編)

クロースアップマジックと出合ったことは、人生最大の驚きと喜びだった。 至近距離で繰り広げられる、カードやコイン、ロープ、リングのテーブルマジックに魅了され、そのマジシャンがオーナーをしているマジックショップに通いつめたものだ。 そして、幸運…

蔵(創作掌編)~最初で最後の弟子⑦~

晶太がいつものように、銀ひげ師匠の書道教室へ行くと、ちょうどお客さんが帰るところだった。 このあいだスケアクロウのことで相談にのった、ゆなちゃんのお祖母さんが、若い女の人を連れている。ゆなちゃんと仲良しのつぐみちゃんのお母さんで、容子さんと…

「あなたは敗れたのです」(創作掌編)

サトシは中学時代からの友だちだが、正月も仕事で帰って来ないというので、こちらから会いに行くことにした。 シングルパックの切り餅をいくつかと、家にあった金箔入り吟醸酒をリュックに詰め、さほど遠くはないものの、一度も訪れたことがない町へ向かう。…

奇跡の一日(創作掌編)

僕は昼前に会社を早退した。毎年恒例のことなので、誰も気にしないし、何も言われない。 午前中に予約しておいた花屋で花束を受け取り、駅へ向かった。 霊園までは、電車を乗り継いで1時間半かかる。緑が豊かで広々とした、公園のような場所だ。 明るい陽光…

天狗の下駄~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕④~(創作掌編)

仕事の打ち合わせから戻り、珈琲店のドアを開けると、ハヤさんが「いらっしゃいませ」ではなく、「おかえりなさい」と言った。 ちょうどお客が途切れたタイミングだったようだ。 なんとなく嬉しい気分でカウンターへ向かう途中、ふと、見慣れない物が目に留…

スケアクロウ(創作掌編)~最初で最後の弟子⑥~

銀ひげ師匠の書道教室で最年少のゆなちゃんから、相談事があった。 「話を聞いたかぎりでは、どうも魔法がらみに思える。それより気になるのが、なぜ私に、この手の相談を持ちかけてきたか、ということなんだが……」 「ひょっとして、師匠の正体を見抜いたと…

迷走の夜(創作掌編)

酔っぱらいの帰巣本能にはいつも驚かされる。 気がつくと私は、自宅最寄り駅のホームに立っていた。吹きぬける風の冷たさで、我に返ったようだ。 自動販売機で温かいお茶を買い、 (もう2度と、やけ酒は飲まないぞ)と、心に誓いながら家路をたどる。 夜更…

春を告げる焚き火(創作掌編)

ある資源フォーラムにおいて、大変ユニークな発表があった。 テーマは「焚き火と燃料費の相関研究」である。 調査対象となった「A地域」は、定住者の多い郊外の地区で、落葉樹が多く植わっており、晩秋から初冬にかけて焚き火(落ち葉焚き)が盛んに行われて…

さかな顔の姫君(創作掌編)

※ 先日、『雷理さん』の記事を拝読し、ブクマコメントのやりとりから生まれた掌編です。www.rairi.xyz 静かな水底で、ヒメマスとキングサーモン(和名:マスノスケ)が、朝のあいさつを交わしていました。 「おはよう、ぼくの姫君。いい夢を見たかい?」 「…

おみやげ(創作掌編)~最初で最後の弟子⑤~

MNJの自然災害対策行動に初参加して1ヶ月あまり、ようやく帰ってきた銀ひげ師匠の様子は変わりはてていた。 ひげは伸び放題でボサボサ、顔も手も日に焼けて、小さな傷や虫刺されの跡がいくつも見える。 (こんなんで明日からの書道教室、だいじょうぶだろう…

ソウルメイト~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕③~(創作掌編)

家で仕事をするのは好きだけれど、まったく外へ出なかった日は、もの足りない気持ちになる。 そう言うと、ハヤさんが意味ありげにうなずいて答えた。 「閉じ込められた魂は、自由を求めるものです。『憧れる』のもとになった古語『あくがる』には、魂が体か…

フライング・ブーケ(創作掌編)

僕の大好きな人、みのりさんが、チャリティコンサートの招待券をくれた。 みのりさんは、主催者側のスタッフなので、一緒に客席に座れるわけではないけれど、コンサート終了後に、夕食の約束をとりつけることができた。 クラシックのコンサートだ。曲目は、…

いつか…(創作掌編)~最初で最後の弟子④~

toikimi.hateblo.jp 銀ひげ師匠が『魔法使いネットワーク・ジャパン(MNJ)』の自然災害対策行動に参加しているあいだ、晶太は影武者たちと一緒に留守番していた。 「灰一」と「紺二」は、師匠が影武者の魔法をかけた作務衣で、洗濯のため2日ごとに交替する…

月見ヶ池~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕➁~(創作掌編)

在宅の仕事でアイデアに詰まり、気分転換を兼ねて散歩に出た。 「いい月夜ですね」 といって、ハヤさんもついてくる。 中天にかかる月は明るく、私は額のあたりに、ひんやりと澄んだ光を感じながら歩いた。 「なんとなく、頭が冴えてきたような気がする」 「…

断片をたどって(創作掌編)

さっきまで騒がしさが嘘のように、静かになった。 私は、 ほっとして歩きつづける。不思議なくらい身も心も軽く、気分は上々だ。 このところ、何かと大変だったけれど、済んでしまえばどうということもない。結局また、取り越し苦労だっだのだろう。 今はた…

影武者(創作掌編)~最初で最後の弟子③~

【連作掌編の第3話です】 toikimi.hateblo.jp 銀ひげ師匠のところに、初めて、『魔法使いネットワーク・ジャパン(MNJ)』から、自然災害対策行動のお知らせが来た。 群れることを好まない魔法使いたちも、たまに集うのは歓迎するみたいだ。 師匠は感無量で…

仲直りの怪談~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕~(創作掌編)

私は、慎重に準備を整えてから行動に移す性格だが、ハヤさんと暮らし始めたときは、全く違っていた。 必要最小限の日数で、追い立てられるように珈琲店の2階へ引っ越してきたのだ。 新婚家庭的な要素は皆無、奇妙な共同生活の開幕である。 いくら宿命の相手…

自由研究(創作掌編)~最初で最後の弟子②~

【前回の掌編の続きです】 toikimi.hateblo.jp 晶太が銀ひげ師匠の弟子になり、魔法の修行を始めてから半年経った。 師匠の営む書道教室に通いつめ、基本の魔法「見えずの墨」を会得したときのことは忘れられない。 一意専心で磨り終えた墨に向かい、口伝え…

最初で最後の弟子(創作掌編)

晶太が通い始めた書道教室は、墨汁と筆ペンを使わない方針のせいか、あまり流行っていなかった。 学童クラスはさっぱりだが、成人クラスの継続的な「生徒さん」たちのおかげで成り立っているのだ、と師匠は言っている。 祝儀袋や不祝儀袋に書く名前くらいは…

山里町の恵み(創作掌編)

陽一は営業部長のお供として、クライアントと会食することになった。 本来なら、研究開発チームのリーダーが行くはずだったのに、突然のぎっくり腰で、若手にお鉢が回ってきたのだ。 連れて行かれたのは、本格的な日本料理の店で、道路から入り口までの間が…

クマ画伯(創作掌編)

クマ画伯のことは、何年か前まで、テレビでよく見かけた。 その素朴派の画風よりも、特異な経歴のほうに関心が集まっていたことを覚えている。 仔グマのときから画家をこころざし、絵を学びたい一心で、単身ふるさとの山を下りた。薪割りのアルバイトをしな…

黒い発明家と白い発明家(創作掌編)

日本発明家コンベンション、通称NHCは、世界的に名の知れた日本人発明家の遺産により運営されている財団法人で、個人発明家を支援することを目的としていた。 「第21回NHC大会の優勝者は、静電気蓄電ブレスレットを発明した『白馬』さんに決定いたし…