かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

桜月夜

 

今年もお花見は、昼休みに職場近くの桜並木を愛でに行くというコースでした。3月中に2回出掛け、写真もたくさん撮りました。

けれど昨日、スマホの写真データを見ていたら、ぽつんと1枚だけ別の桜の写真があり、撮った状況を思い出すのにやや時間がかかりました。撮影日付は1週間ほど前、そういえば、仕事帰りに月と桜を撮ったのでした。

 

 

満月まであと少しという月が、夕暮れの空に明るく昇っていました。

あ、月と桜……と思って立ちどまったものの、しみじみながめるより先にスマホを取り出して、撮り終えたらそのまま忘れてしまったようです。

心に余裕のない日々を過ごしているなぁと自省しました。

 

それでも写真を見ていると、いろいろ思い出します。

月に気づいたときの嬉しさや、桜との対照のおもしろさ、あたたかな春の空気に包まれている感覚などが、記憶に残っていました。

けれど、いちばん強く残っていたのは、

 久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ

百人一首にもおさめられている紀友則の和歌ですが、すごく好きな歌なのに、上の句がどうしても思い出せず、もやもやしながら歩いたことです。

月はおぼろではなかったけれど、頭の中がかなりおぼろげであったという話でした(笑)。

 

炊飯器で小豆あん

 

昔、両親が健在だったころ、わが家のあんこ作り担当は父でした。祖父が一時「あんこ屋の職人」をしていたそうで、作り方を教わったと聞きました。

お彼岸には、大きなお鍋いっぱいの小豆あんを使い、家族総出でおはぎをこしらえるのが年中行事でした。

父が指定していた小豆の品種は「大納言(だいなごん)」。今回、調べて知ったのですが、大納言小豆は粒が大きく、色はきれいで味もよいという、高級ブランド小豆だったのです。

なるほど、母と一緒に買いに行くと、大納言を置いていない店もあり、

「こっちの小豆じゃダメなの?」

と尋ねたことを覚えていますが、凝り性の父らしく、作るからには最上級の豆がよかったのでしょう。

 

買ってきた大納言小豆は、新聞紙のうえに広げて品質チェックしました。黒っぽく変色した豆などを取り除くのですが、時代が時代(昭和)なので、まれに小さな石粒を発見することもあり、父に「よく見つけた」とほめられて、手柄を立てたような気分になったものです。

長時間つきっきりで小豆を煮ていた父の姿が、今も目に浮かびますが、いちばん強く印象に残っているのは、袋を逆さにしてザーッと投入する上白糖の量です。1~2袋は使っていました。

砂糖は水分子と結合しやすいため、その保水力であんこをしっとりとなめらかに保つそうです。さらに、カビや細菌が繁殖するのに必要な水分を奪う「脱水性」により、天然の防腐剤としての役割を果たすので、大量の砂糖を加えることは、理にかなった知恵だったわけです。

とはいえ、カロリーを気にする「お年頃」になった姉と私が、砂糖を減らすよう口うるさく要求した結果、父のあんこはだんだんと甘さひかえめになっていきました。

 

──というような、家族のあんこエピソードをなつかしく振り返りつつ、炊飯器で小豆あんを作りました。「あんこ作りモード」は搭載されていないので、自己判断でやってます。

 

ネットでいろいろ情報収集したところ、小豆あん作りには「渋切り/ゆでこぼし」が重要だとわかりました。

小豆の皮に多く含まれるタンニンなどの渋み成分が、アクとして溶け出したゆで汁を捨てるという工程です。これを1回から数回行わないと、あんこに渋みやえぐみが残るということでした。

しかし一方では、あえて渋切りをしない人もいます。

いわゆる雑味もそれほど気にならないし、むしろ小豆そのものの味わいが生きているあんこになるから、「こっちのほうが好き」という意見です。

あるいは、ゆで汁の味をみて、渋みが強ければ捨て、大丈夫ならそのまま使うという人もいました。

 

それぞれ、なるほどと思ったので、渋切りあり・なしで作ってみました。

【材料】

  • 小豆 150g
  • 水 600ml+α
  • てんさい糖(砂糖)70g
  • 塩 1~2g

 

【作り方】

① 洗った小豆と水700mlを炊飯釜に入れて、普通の炊飯モード(53分)で炊く。

 

 

② 炊きあがったら、渋切りする場合は、ゆで汁を捨て小豆がひたひたになるくらいの水を足して、ケーキモードで30~40分炊く。

渋切りしない場合は、そのまま保温モードで30~40分。

※ネットでは、再び炊飯モードで炊くというレシピがほとんどだったのですが、わが家の炊飯器は連続炊飯ができないタイプだったので、別機能を使いました。

 

 

③ 小豆がやわらかくなっているのを確認してから、てんさい糖と塩を入れ、さらにケーキモードで30分。

※てんさい糖(砂糖)を加えると、そのあと加熱しても豆がやわらかくならない、ということなので注意。ちなみに、よく煮えていない小豆は、かなり渋い味がします。

炊きあがりの見た目はぜんざいっぽい感じで、ゆるすぎでは?と思いましたが、つぶしながら混ぜているうちにしっかりしてきて、ちゃんとあんこになりました。

もし、それでもゆるい場合は様子を見ながら少しずつ加熱し、逆に固い場合はお湯を足して調整します。

 

(このときは固めだったので、少しお湯を足しました)

 

甘さひかえめの小豆あんができました。プレーンあんことしてそのまま食べたり、ケーキにトッピングしたりしています。

 

↑↑↑ 左が渋切りしたもので、右は渋切りなしのあんこです。

どちらも美味しかったですが、渋切りありのほうはクセがなく、渋切りなしは色も味も濃い感じがしました。

できあがった小豆あんの総量は450gくらい。すぐ食べる分以外は、小分けにしてラップで包み、フリーザーバッグに入れて冷凍しています。

 

ところで、小豆のゆで汁には強い抗酸化作用を持つポリフェノールビタミンB1、むくみに効果があるサポニンカリウムなど豊富な栄養素が溶け出しており、「あずき水」としてダイエットや健康のために飲んでいる人も多いらしいです。

次に作るときは、渋切りをしてもゆで汁は捨てずに有効活用しようと思いました。

 

 

浴室の壁にマグネット

 

先日、職場でお昼休みに「浴室の壁にマグネットがくっつく」というネット記事を見て、衝撃を受けました。

さっそくまわりの人たちに「知ってた?」と聞いてみたところ、

「知らなかった!マグネットがつくなんて思ってもみなかった!!」

と、私のようにびっくりしている人もいれば、

「そういえば、前にテレビでやってたね」

「知っていた。うちのバスルームはマグネットグッズだらけ」

「知ってたけど、特に必要ないから使っていない」

など、淡々と答える人もいて、温度差というか、情報の落差を感じました。知っている人にとっては当たり前のことで、聞かれなければ言う機会もないし、知らない人はずっと気づかないまま……。

 

私がここ数年暮らしているのは、賃貸の集合住宅ですが、シャワーフックがバスタブ側にしか設置されていません。洗い場でシャンプーするときは、とても不便です。

そのため入居当初から、洗い場側に吸盤式のシャワーフックを取りつけていました。

 

(SANEI 吸盤式シャワーフック PS30-37-W)

 

浴室の壁は表面に細かい凹凸がある材質で、吸盤には不向きだったので、バスタブの脇のツルツルのところにつけました。

角度調節ができる上、めったにはずれて落ちることのない優れもののシャワーフックですが、低い位置にしか取り付けられなかっため、かなり頭を下げて洗髪しないとシャワーヘッドにぶつかってしまいます。

 

さて、試してみたところわが家の浴室の壁にも、マグネットがつくことがわかったので、新しいシャワーフックを購入することを決めました。まだ使えるものを取り替えるのはもったいない気もしましたが、ここは、日々の快適さ優先です。

 

 

パール金属 マグ・ピット シャワーフック HB-5549 説明書)

 

説明書を読んで、一見マグネットがくっつきそうもない浴室の壁も、裏側には鋼板が挟まれていることを知りました。

 

(上がマグネット式・下が吸盤式のシャワーフック)

 

ちょうどいい位置にシャワーフックを取りつけることができてよかった、よかった。

吸盤式の方は、自然に落ちるまでこのままにしておこうかどうか考え中です。

 

【追記】浴室専用のマグネット製品でないと、設置面の壁にサビによる着色が起きてしまうこともあると聞きました。気をつけようと思います。

 

 

炊飯器でアップルシナモンケーキ

 

炊飯器でアップルシナモンケーキを作りました。

前にりんごジャムで作ったのですが、りんごがもっとたくさん入っていたらいいなと思ったので、今回は「サンふじ」をまるまる1個(芯は除く)使いました。

 

【材料】

  • ホットケーキミックス 200g
  • りんご 1個
  • レモン汁 大さじ1杯
  • シナモンパウダー 小さじ1杯(1.8g)
  • バター 33.3g
  • 卵 2個
  • 森永クリープ 20g + お湯 60ml
  • はちみつ 30g

※ バターは1箱100gのものを3等分しているので半端な数字、クリープをお湯で溶いた液体は牛乳の代用です。

 

【作り方】

① りんごは皮つきのまま8等分して、厚めのいちょう切りにする。

② フライパンにりんごをいれ、レモン汁とシナモンパウダー加えてまぶす。

③ ふたをして弱火で蒸し焼きにし、透き通ってきたら火をとめてバターを入れる。

 

 

《余談》

火が通ってくると、りんごの香りが際立って、気分も浮き立ちます。これも美味しさのうちですね。

さて、いつもバターは電子レンジで溶かしているのですが、今回はアップルシナモン煮の余熱を利用しました。

ケーキのレシピを見ると、バターは溶かさず、室温でやわらかくしておいて、白っぽくなるまで泡だて器で混ぜると書いてあります。何が違うのだろう?と思っていたのですが、これはバターの「クリーミング性」という性質を活かした方法だと知りました。

バターをクリーム状にしてよく混ぜると、細かい気泡をたっぷり含ませることができ、焼いたときにその気泡が膨張して生地が膨らむため、ふんわりとした軽い食感になるそうです。パウンドケーキやマフィンに適しています。

一方、バターを液状化すると、クリーミング性は失われますが、バターの風味やしっとりとした食感を与えることができるので、マドレーヌやフィナンシェなどには溶かしバターを使うとのこと。

なるほど!

私が使っているのは米粉ホットケーキミックスなので、しっとりもちもちした食感が持ち味です。引き続き溶かしバターでいこうと思います。

《余談》おしまい

 

④ ボウルに卵を割り入れて泡だて器で混ぜ、さらに、クリープ液(クリープをお湯で溶いて、はちみつを加えたもの)を加え、よく混ぜ合わせる。

⑤ ホットーケーキミックスを入れて混ぜる。

⑥ アップルシナモン煮を入れて混ぜ、炊飯器のケーキモードで焼く。

 

 

45分後、りんごがごろごろ入っているケーキが出来上がりました。表面が乾きやすいので、キッチンペーパーとラップをふわりと載せて冷まします。

 

 

甘さひかえめなので、罪悪感少なめです。そして、なんといってもりんごが美味しい。今回使ったりんごは300gくらいでしたけれど、もっと大きなりんごでもよかったと思いました。

ケーキを充分に冷ましたら切り分けて、すぐに食べる分以外はラップ&フリーザーバッグで冷凍保存しています。解凍するときは、ふつうに電子レンジで温めるだけですが、出来たてのときより味がなじんで、さらに美味しさが増している気がします。

 

 

お寺でマインドフルネス瞑想②

 

お寺の本堂で開催されている、マインドフルネス瞑想のクラスに参加しました。2年と3ヶ月ぶり、2回目です。

 

toikimi.hateblo.jp

 

前回、参加者が私を含め初めての人ばかりと聞き、一期一会という思いが湧いたことを覚えています。

今回は、初参加の人もいれば、そうでない人もいましたが、

「この場に同じ人が集まって時を過ごすのは一度きりですから、両隣の人に笑顔で挨拶してください」

と講師の先生にうながされ、目と目を見かわして挨拶できたことが、何となくうれしくて心に染みました。

 

最初の自己紹介では、一人ずつ順番に名前と、マインドフルネスに興味をもった理由や、今日の講習に期待していることなどを話していきます。

私が話したのは、もともと雑念が多く瞑想は敬遠していたけれど、2年あまり前にこちらでマインドフルネス瞑想を体験してから、自分なりに続けてきたこと、瞑想を習慣にできたのはよかったものの、慣れてしまった分、あまり集中できないことなどです。

すると先生は、瞑想は日々の思いを「ちょっと脇に置いて」行いますが、日常空間ではなかなかうまくいかないこともある。たとえばお寺の本堂のようにシンプルで非日常的な場であれば、瞑想に集中しやすくなるので、そのときの感覚を覚えておいて、自宅で行う際それを思い出すようにする、という練習方法を教えてくださいました。

 

また「雑念とは、川に落ちた葉のようなもの」という言葉も、とても印象的でした。

落ちては流れる葉に付いていくことなく、川のほとりに座ったまま、その葉が落ち、通り過ぎ、流れ去るようすに、ただ気づく。そういうスタンスでいられることが、私の努力目標なのだなぁと思います。

「ただ気づくだけでいい」は、ゲシュタルト療法を学んでいたとき、しげさんというファシリテーターから聞いた言葉で、当時はよくわからなかったのですが、なぜかずっと頭の片隅にあって、繰り返し浮かんでくる呪文のような言葉です。

 

 

自己紹介の後は、リラックスするための短めの瞑想。軽くストレッチしてから、自分の体をゆっくりと感じつつ緊張をゆるめます。

次に15分の静座瞑想を行いました。

常時、過剰な情報にさらされ、自動的に反応し続けている頭と心が、警戒を解いてほっと一息ついているのを感じられる時間でした。

 

そして、最後は「食べる瞑想」ということで、個包装のチョコレートが配られました。

食べ始める前に、まず、チョコレートの原材料であるカカオ豆が栽培・収穫・加工され、日本の工場まで運ばれたこと、包装紙やパッケージも含め、私たちの手に渡るまでのあいだに経てきた、数えきれないほどの工程や、直接的・間接的に関わった人たちのことに思い馳せました。

包み紙を開け、チョコレートの色、形、質感、香りなど感じ取り、直接手のひらに載せて溶ける様子を観察したり、唇に当ててみたりします。(ウェットティッシュも配られました)

そして、ごく少量をかじり取り、目を閉じてじっくりと味わいます。ふたくち目はもうちょっと大きめに、その後は自由に食べきりました。

 

チョコレートは大好きですが、ここまで丁寧に食べたのは初めてです。

そのためか、最初のひとくちの味わいは、とても新鮮な感じでした。2度目になるとインパクトは薄れたものの、チョコレートにまつわるポジティブな思いが湧いてきて、幸せな気持ちになりました。もしかすると「食べる瞑想」の趣旨(?)からはずれるのかもしれませんが、とても楽しい体験でした。

 

帰り道、不思議な多幸感を感じながら、駅まで歩きましたが、それがマインドフルネス瞑想の効用なのか、チョコレートによって、幸福感をもたらす脳内物質が放出されたためだったのか……(笑)。

お寺でマインドフルネス瞑想、ぜひまた参加しようと思います。

 

 

スノードーム(創作掌編)~銀ひげ師匠の魔法帖⑯~

 

 晶太が学校帰りに、銀ひげ師匠の書道教室へ行くと、ついさっきまで誰かいたらしい気配があった。

(今日は定休日だけれど、たまに個人指導を引き受けているみたいだから、その生徒さんかな?)

 と思ったが、そうではないようだ。

 ほくほくした顔で振りむいた師匠が、嬉しそうに言う。

「おお、いいところへ来た。掘り出し物を手に入れたよ」

 ここで掘り出し物というと、たいてい怪しげな魔法グッズのことである。だとすれば、お客さんはときどきやってくる古物商の人だったのだろう。

 

「今度は何ですか?」

「それがね、とても珍しいスノードームなんだ」

 スノードームといえば、透明な丸い容器のなかに、建物や人形などのミニチュアと白いパウダーが入っていて、ゆり動かすと雪の降る冬景色が見られる置き物だ。クリスマスの時期に、贈り物コーナーとかでよく見かける。

 けれど今、晶太の前に置かれているのは、たしかに普通のスノードームとは違っていた。

 

 

「空っぽだ、雪しかない」

「ね、おもしろいだろう? 同じ時に作られた他の製品には、ちゃんと雪以外の中身が入っていたそうだよ。これだけがなぜか、手違いで『規格外』になったわけだ。さあ、まずはご挨拶してごらん」

 と、うながされて、晶太はスノードームを司る神様に「ウタ」と呼ばれる呪文を使い、ていねいに挨拶した。

 銀ひげ師匠は、書道の他に魔法も教えている。といっても、魔法の弟子はまだ晶太ひとりなのだが、教えの基本は、万物にはそれを司る神様がいるということだ。

 神様に挨拶すると、うまくいけば、返事として合言葉をいただくことができる。合言葉はその神様にアクセスするためのパスワードみたいなものだから、しっかり覚えなければならない。そういうふうにしてつながりを持てた神様に、頼みごとをかなえてもらうまでの一連の流れが、すなわち銀ひげさんの魔法なのだった。

 

 無事にスノードームの神様から合言葉を授かった晶太は、

「師匠は、何か頼んだのですか?」と尋ねた。

「頼んだとも。このスノードームは、いわばまっ白なスクリーンみたいなもので、のぞきこんでいる人の望みを映し出すことができる。私がさきほど見せてもらったのは、ほうきにまたがって、雪空を飛び回る自分の姿さ。おかげでいまだに身も心も軽く、すごく自由な気分だ」

 なるほど……、銀ひげ師匠は前に、書道の筆を魔女のほうきくらいの大きさにする魔法を見せてくれたけれど、それに乗って飛ぶことはできないと言っていた。

「ほんとうは空を飛びたい気持ちがある、ということでしょうか?」

「そうなのかなあ、だとすると意外だね。飛行を追求している魔法使い仲間はいるが、私自身は今までほとんど関心がなかった。これは新たな研究課題の出現かもしれんな」

 

 そこで晶太も、合言葉とウタを組み合わせ、自分の望みを映し出してくださいと、スノードームの神様に頼んだ。

 ドームをゆらすと雪が舞い散り、そして、静かに降り積もる。

(えっ なにこれ?)

 現れた光景に、思わず目をみはった。どんよりとした曇り空がおおっている下は、枯れて、乾いて、干からびた地面だけで、あとは、なにもない。

「ほお、みごとな枯れ野原だ。これは望みというより、今現在の心象風景といったところかな」

 銀ひげさんが、興味深そうにつぶやく。

「たしかにそうかも……。なんだかこのごろ、毎日つまらないなあと思ってたから。師匠、これって、ぼくの心はもう枯れた野原みたいになっちゃって、望みのカケラもないということですか?」

「いやいや、早合点してはいけない。こういうことは、季節が移り変わるような自然の流れなのさ。君は魔法の修業を重ね、春から夏にかけてさまざまな花を咲かせた。秋には実りも多かった。だからこそ、今は休息の時というわけだ。この枯れ果てた地面の下には、たくさんの種が眠っているんだよ」

 

 銀ひげ師匠の言葉に、晶太は少し気を取り直して、スノードームの景色を見つめた。枯れ草の一本一本が、これまで夢中でがんばってきたあかしだと思えば、見る目も変わってくる。

(こういう魔法を見せてくれる神様って、いじわるなのか、親切なのかわからないけど、やっぱり不思議でおもしろいな)

「不思議」とか「おもしろい」と感じるたび、わけもなく楽しい気持ちになるが、このときもそうだった。

 すると、その気持ちに応答するみたいに、スノードームのなかで色とりどりの火花が散り始めた。火花はちかっと光ってはすぐに消えていったけれど、地面に落ちた後、火種となったようだ。たちまち野原は明るく燃えあがり、ドーム全体が虹色の炎で輝いた。

「乾ききっているから、よく燃えるねえ。なかなかの眺めだ」

 感心したように銀ひげさんが笑い、晶太は息をのんで、枯れ野が燃え尽きるのを見守った。

 あとに残ったのは、炭のように黒い焼け跡だけ。

 

「師匠……、胸の奥がほかほかあったかくなって、なんだか元気が出てきました」

「それは何より。埋まっている種の栄養にもなるだろう。いいものを見せてもらったね」

 晶太はうなずき、スノードームの神様にお礼を言って、そっとゆり動かした。よどんだ曇り空と黒い地面が、あっというまに、雪の降りしきる風景へと変わる。

 ドームは色も熱もない世界に戻ったけれど、それでも、晶太の胸の奥は明るくあたたかいままだった。

 

 

お味噌汁にちょい足し

 

ほぼ毎朝、納豆を食べています。平日はお味噌汁に入れて、休日は納豆ごはんでというルーティンです。

お味噌汁のときは、ぐるぐるかき回したプレーンな納豆を直接お椀に入れるのですが、このあいだの連休明け、うっかり「納豆のたれ」とからしを加えてしまってから、今日は平日=納豆味噌汁の日だと気づきました。

やっちまった!どうしたものか……しかし出勤前の行動スケジュールは分刻み、やむを得ずそのままお味噌汁に投入したのでした。

 

お湯で薄めるしかないと思いつつ、おそるおそる味見してみると、意外においしい。これはこれで充分「あり」だったのです。

確かに、味噌仕立ての豚汁に七味唐辛子をかけたりしますし、お味噌汁にからしも合うのかもしれません。

そして、納豆のパックに付いている「たれ」は醤油ベース。醤油と味噌は両方とも大豆からできている発酵調味料なので相性が良く、お味噌汁の味が薄かったときは、塩より醤油を使うほうがいいと、昭和の時代に『暮らしの手帖』で読んだ記憶があります。

そういえば、やはり何十年も前に「お味噌汁にバターを入れると、パン食に合う」という記事を読んで実行したことなど思い出しました。

お味噌汁にちょい足しするとおいしくなる調味料は、けっこうあるようです。

 

【調味料】

  • 醤油:醤油・味噌・出汁ともに、うまみ物質のグルタミン酸が豊富、合わさることで深みが増す。
  • :全体的に味が締まって、塩分控えめでもおいしく感じられ、健康効果も高い。
  • トマトケチャップグルタミン酸が多く、カツオだしに含まれるイノシン酸とうまみの相乗効果を生む。
  • マヨネーズ:まろやかになり、コクがでる。

 

香辛料】

  • からし・黒コショウ・七味唐辛子など:スパイシーさが加わることでおいしく減塩できる。

 

【乳製品】

  • バター・チーズ・牛乳クリーミーな味わいでスープ風に。

 

【オイル】

 

以前、えごま油を高級なごま油だと勘違いして買ってしまったことがあります(えごまはシソ科、ごまはゴマ科でまったく別の植物)。えごま油は加熱調理に適さないのですが、お味噌汁にちょい足しするならOKと知り、無事に使い切ることができました。

他にも、日本酒を入れるとほのかな甘みとコクが加わり、風味がよくなるそうです。

そういえば、ちょい足しではないけれど、子供のころ、母がたまに酒粕入りのお味噌汁を作ってくれましたが、寒い冬にうれしいごちそうでした。

 

 人間という生きものは、苦悩・悲嘆・絶望の最中(さなか)にあっても、そこへ、熱い味噌汁が出て来て一口すすりこみ、

(あ、うまい)

 と、感じるとき、われ知らず微笑が浮かび、生き甲斐をおぼえるようにできている。

 大事なのは、人間の躰にそなわった、その感覚を存続させて行くことだと私はおもう。

 『日曜日の万年筆』池波正太郎~「私の正月」~より

 

 

お味噌汁には、さまざまなアレンジを受けいれるふところの深さがありますが、やはり、

(あ、うまい)と感じて、生き甲斐をおぼえるのは、舌に馴染んだいつものお味噌汁でしょうか。

ちなみにいちばん好きなのは、大根と油揚げのお味噌汁です。