ゲシュタルト療法の基本は「今、ここ」で自分に何が起きているか気づくことですが、知識としてはわかっていても、あまり身についていません。コースを受講したりワークショップに参加したりではなく、日常生活のなかで「今、ここ」にいられる方法を探していました。
というのも、私が感じているストレスのほとんどは、「今、ここ」に存在しないことだからです。過去の失敗にとらわれる、人の気持ちが離れていくのを恐れる、無価値感や不安感など、勝手にアタマのなかで作り出している悩みが多いのです。
この「勝手に」というところが厄介で、つまり、わかっていてもやめられない、コントール外の現象と言えます。
「マインドフルネス瞑想」という言葉は、前から知っていましたが、自分は瞑想向きではないと思い、なんとなく敬遠してきました。
けれど、この8月に『過敏で傷つきやすい人たち~HSPの真実と克服への道~』(岡田尊司・幻冬舎新書)の読書感想をブログに書き、マインドフルネス認知療法の入門的なプログラムである「三分間呼吸空間法」を始めてから気持ちが変わりました。
そして、運命的な出会いが……(笑)。
YouTubeで、ココイマさんという女性のマインドフルネス瞑想の誘導動画を見つけ、その優しい声と、明晰でわかりやすい内容に惹かれました。
それ以来、毎日ココイマさんと「瞑想の練習」をしています。
座って、あるいは仰向けに寝て、自分の自然な呼吸に意識を向け続けるというのが基本です。心がさまよったり、別のことを考えていることに気づいたら、気づいた時点で呼吸に意識を戻します。その際、ありのままの自分を、判断せずに優しく受け入れることを心掛けます。
他にも、身体のそれぞれの部位に意識を向けていくボディスキャン瞑想や、わいてくる思考と感情をどんなものでも「良い・悪い」と判断せず、ただ言葉にして確認し、消えていくのを見届ける瞑想など、いろいろなテーマで練習することができます。
瞑想中に異常なほど眠くなったり、感情が大きく揺れることもあります。続けているうちに、マインドフルネス瞑想についてもっと知りたくなりました。
ネット検索してもなかなか見つからなかったのですが、気長に散発的に探していたところ、突然、理想的な講習会を発見することができました。
会場は職場から一駅のところにあるお寺です。定期的に無料の坐禅会を開催しているお寺で、講師の女性も、その坐禅会に長年通っていらっしゃるとのこと。
予約は不要ですが、開催の確認をホームページの問い合わせフォームから行います。
当日、方向音痴の私はプリントアウトした地図と首っ引きでたどり着き、夜の山門をくぐりました。
誰もいらっしゃらない……。
おそるおそる玄関を入ると、鏡にように磨き上げられた上がり框に、
「そのまま本堂にお進みください」という案内プレートが置かれています。
本堂では、参加人数分の座布団と坐蒲(ざふ:坐禅用の円形クッション)のセットが準備されており、講師の先生が素敵な笑顔で迎えてくださいました。
先生の気さくな人柄と、開放感のある本堂。場の雰囲気はとても受容的で、緊張していた肩の力が抜けていきます。
やがて、参加者全員がそろって開始時刻になると、軽いストレッチの後、まず10分間の瞑想を行いました。先生の誘導で、自分の身体の感覚や自然な呼吸に意識を向けるという瞑想です。
自宅でしていた瞑想と、内容的に大きな相違はないのですが、体感の深さは段違いでした。場の力、そして、人とつながっている安心感を強く感じます。
その後、各人の簡単な自己紹介と、瞑想の感想をシェアする時間が設けられました。
参加者は7名で、小学生の男の子を連れたお母さん、坐禅やヨガをやっている人、転職中の人、マインドフルネスを仕事に役立てたいという人など、さまざまでした。共通点は「クラス初参加」です。
賢い小学生の感想「10分より短く感じました」に、おとなたちは感心しきりでした。
先生の解説や体験談を伺い、さらに十数分の瞑想。
「マインドフルネス瞑想は筋トレ」という先生の言葉が印象的でした。
今までずっと使ってこなかった部分の筋力をトレーニングしていくイメージです。即効性のものではなく、毎日10分間の瞑想を2~3ヶ月続けると変化を実感できるようになる、というお話に深くうなずきました。
最後は「歩く瞑想」でした。
片足をあげ、前に進んで足を下す、もう片方の足をあげる、という動作を一歩ずつ意識しながら、ゆっくりと小さな歩幅で歩きます。かなり時間をかけて、本堂を一周しました。
座って瞑想するだけではなく、たとえば、歩く、一杯のコーヒーを飲む、歯を磨くなどの日常的な動作でも、意識を向け続けて行うことで「筋トレ」になるそうです。
1時間のクラスが終了し、おそらく二度と会うことのない人たちと挨拶を交わして、お寺を出ます。
心地よく満ち足りた疲労感にひたりながら歩いていると、見覚えのない通りに出てしまいました。立ち止まり、深呼吸して地図を取り出し、来た道を戻ってから、もう一度駅に向かい直しました。