かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

さかな顔の姫君(創作掌編)

 

※ 先日、『雷理さん』の記事を拝読し、ブクマコメントのやりとりから生まれた掌編です。
www.rairi.xyz

 

 

 静かな水底で、ヒメマスとキングサーモン(和名:マスノスケ)が、朝のあいさつを交わしていました。

「おはよう、ぼくの姫君。いい夢を見たかい?」

「おはよう、マスノスケさん。とても不思議な夢を見ていたの」

 といって、ヒメマスは夢語りをはじめました。

 

   △ ▲ △ ▲ △

 

 真澄(ますみ)姫は、誠実で思いやりのある人柄だったので、身近に仕える者たちからも深く愛されていました。

 しかし、どれほど献身的な衛士でも、すきま風のように入りこんでくる、心ない陰口をくいとめことはできません。

「亡き母上の美貌を受け継がなかったとは、残念なことです」

「気の毒な姫……、父王そっくりの『さかな顔』ではないか」

 含み笑い、目くばせ、ジョークに潜んだ毒──、素知らぬ顔で聞き流してはいても、姫君の心は、つきささる棘の痛みを感じていたのです。

(今度生まれてくるときは、魚になりたい……)

 そんなふうに願うこともありました。

 

 父王は、大切な真澄姫にふさわしい結婚相手をさがしていました。

 近隣の諸国や名家からの申し込みは少なからずありましたが、姫の幸せを考えると、どの候補者も気に入りません。

 そんな折、かねてより親交のあったサモン国王の即位式に、主賓のひとりとして招待されたのです。真澄姫を伴って列席し、思慮深く文武両道に秀でた若き王を、心から讃えました。

 

 即位式の後は、盛大な舞踏会が催されました。

 新王は、真澄姫をパートナーに選んで踊りつづけ、そして、ラストダンスが終わると同時に求婚したのです。

「多くの人たちに囲まれていながら、あなたはどこかさびしそうに見えた。それで私は、ダンスを申し込んだのです。しかし、踊っているあいだに気づきました。本当にさびしかったのは、私の方だったのです。どうか、私の妻になってください」

 

 ふたりは祝福されて結婚し、ずっと幸せに暮らしました。

「生まれ変わってもまた、あなたと結婚したい」と、王は王妃に言いました。

 

   △ ▲ △ ▲ △

 

「そうだったのか、やっぱり、ぼくたちの出逢いは運命なんだね」

 マスノスケはやさしく、ヒメマスを見つめます。

 あのとき、大雨で湖があふれ、海に運ばれてしまったヒメマスは嘆きましたが、マスノスケと巡り会ったことで、新しい世界がはじまったのです。

 マスノスケに寄りそって泳ぐヒメマスの体は、いつしか婚姻色と呼ばれる美しい紅色に染まっていました。

 

 

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