かつて、掌編創作の師から「ラストが大事」ということを、繰り返し教わりました。
初心者は、出だしに力が入り過ぎて、肝心のラストは駆け足で終わってしまいがちなので、配分を考えること。「頭」は軽くして、結末にしっかりと重点を置くこと。
「行き当たりばったりではダメ、ラストシーンを目指して進むように書きなさい」
という教えを肝に銘じています。
──銘じていますが、時には、終わりがはっきりと定まらないまま、見切り発車的に書き始めることがあります。途中でラストシーンが浮かんでくるのを期待して書き進むのですが、思いつかないと暗礁に乗り上げます。
逆に、先日書いた掌編では、前もって決めていたラストが二転三転しました。
最初に想定していたラストシーンは、主人公の「私」が飲んだ2種類のオリジナルカクテルの手書きレシピを、帰りぎわにマスターからプレゼントされる、というものでした。
レシピには作り方と共に、お酒の種類や銘柄も書かれています。
驚いたことに、それぞれまったく別の味わいを持つカクテルなのに、使われている数種類のスピリッツやリキュールはすべて同じ……、ただ配合が違うだけだった。
という「落ち」でした。
ですが、こういうことは本当に可能なのでしょうか。残念ながら、私には行きつけのバーはなく、知り合いにバーテンダーさんもいません。ネットで検索してみても、よくわかりませんでした。
絵空事とはいえ、自分なりに現実味を感じられないと書きにくいものです。
もうひとつのラスト候補は、さらにその先の出来事。
再開発プロジェクトにより、店が入っていたビルが取り壊された後、突然、工事が中断します。
理由は、建物が撤去された跡地から、遺跡や遺物などの「埋蔵文化財」が発見され、文化財保護法によって発掘調査が行われることになったから、というもの。
そして主人公はある日、発掘された大量の出土品のほとんどが「杯」であったことを知るのです。
このラストを思いついた時点で、タイトルを「杯の店」に決めました。
一部は実話です。
去年、職場の近くで、建設工事が何ヶ月も中断し、発掘調査が行われていました。大量の「杯」は出土しなかったようですが。
珍しがって写真も撮ったので、少し加工した画像を掌編に添えるつもりでした。
いくら「ラストが大事」とはいえ、盛りだくさんにすればいいわけではありません。
昔、思いを込めて書き綴ったラストシーンを、師匠から、
「ここから先は、要らない」
と、バッサリ削られたことを思い出します。
「杯の店」でも、あれこれ考えてゴールと定めた場面より、ずっと手前に着地点がありました。重要なシーンを書いていると、首筋から後頭部にかけてチリチリとした感覚が走ることがあって、話を先に進めようとしても引き戻される感じでした。
手書きのカクテルレシピや発掘現場の写真も捨てがたかったのですが、『ピアノ・マン』が流れる店内で完結して良かったと思います。ベストのラストです。
というわけで今回の記事は、蛇足特集でした。