かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

新作帖

最初で最後の弟子(創作掌編)

晶太が通い始めた書道教室は、墨汁と筆ペンを使わない方針のせいか、あまり流行っていなかった。 学童クラスはさっぱりだが、成人クラスの継続的な「生徒さん」たちのおかげで成り立っているのだ、と師匠は言っている。 祝儀袋や不祝儀袋に書く名前くらいは…

山里町の恵み(創作掌編)

陽一は営業部長のお供として、クライアントと会食することになった。 本来なら、研究開発チームのリーダーが行くはずだったのに、突然のぎっくり腰で、若手にお鉢が回ってきたのだ。 連れて行かれたのは、本格的な日本料理の店で、道路から入り口までの間が…

クマ画伯(創作掌編)

クマ画伯のことは、何年か前まで、テレビでよく見かけた。 その素朴派の画風よりも、特異な経歴のほうに関心が集まっていたことを覚えている。 仔グマのときから画家をこころざし、絵を学びたい一心で、単身ふるさとの山を下りた。薪割りのアルバイトをしな…

黒い発明家と白い発明家(創作掌編)

日本発明家コンベンション、通称NHCは、世界的に名の知れた日本人発明家の遺産により運営されている財団法人で、個人発明家を支援することを目的としていた。 「第21回NHC大会の優勝者は、静電気蓄電ブレスレットを発明した『白馬』さんに決定いたし…

酔っぱらう芙蓉(創作掌編)

上弦君とは、知人の仕事仲間という縁で知り合った。友だちというよりは、一方的になつかれて、相談相手になっているという間柄だ。 今日も、「ナミさんの意見を聞かせてもらいたくて」と連絡があり、ビオ居酒屋で待ち合わせた。花の品種改良の仕事をしている…

イソップの太陽(創作掌編)

30年も前のことだけれど、ありありと覚えている。 古びたオフィスビルが立ち並ぶ街角、道路をはさんで向かいあっている2棟のビル。共に7階建てで、片方が灰色、もう片方は煉瓦色だった。 私が数ヶ月のあいだ夜間の警備員をしていたのは、灰色のビルのほ…