かきがら掌編帖

10年あまり通っていた童話教室で「宿題」として書いたものに加筆修正して載せています。

生きている物語たち「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」

今週のお題「読書の秋」

ナショナル・ストーリー・プロジェクト

「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」 ポール・オースター

 

ラジオ番組に全米のリスナーから寄せられた実話集であり、作家ポール・オースターが編んだアンソロジーでもあります。

「編者まえがき」に書かれている、この本の成り立ちがすでに、興味深い実話となっているのです。

 

たとえば月に1度、ラジオ番組で物語を語ってもらうことはできないか、という提案を受けたオースターは、

「自分の仕事をするだけでも精一杯なのに、他人の要請に応じて、定期的に物語をひねり出すなんて、できるわけがない」と、ことわるつもりでした。

ところが、奥様のシリ・ハストヴェット(この方も作家)は新提案を思いつきます。

「あなたが物語を書くことはないのよ。いろんな人にそれぞれ自分の物語を書いてもらえばいいのよ。リスナーの人たちから送ってもらって、一番いいやつをあなたが番組で朗読するのよ」

すばらしい逆転の発想!

 

オースターはラジオの聴取者に呼びかけました。

「物語を求めているのです。物語は事実でなければならず、短くないといけませんが、内容やスタイルに関しては何ら制限はありません」

その結果、1年間で4千通を超える投稿が集まり、多くの「一番いいやつ」がラジオ番組で放送され、さらに、オースターから見て最良の179話がアンソロジーに収められました。

物語は10のカテゴリーに分類されています。

 動物、物、家族、スラップスティック

 見知らぬ隣人、戦争、愛、死、夢、瞑想

 

数行だけのシンプルな話、思わず笑ってしまう失敗談、不思議な偶然の一致、悲痛な出来事、あたたかな余韻の残る話、神や運命を感じさせる物語、O・ヘンリーの短編のような話――。

ちなみに、私のベスト5は、

「屋根裏で見つかった原稿」…まさに、O・ヘンリー

「ファミリー・クリスマス」…語り伝えられた1920年代前半のクリスマス

「マーケット通りの氷男」…毎週金曜日の夜、大量の氷を運ぶ都会のサンタ

バレリーナ」…ラストの1行で泣いてしまう

「予行演習」…愛とユーモアがあふれる、母と娘のさいごの日々

いやまだ、あれもこれもいい。たくさんありすぎて迷います。

 

編者のオースターは、何度も何度も、投稿者からお礼を言われたそうです。

「物語を語るチャンスを与えてくれてありがとう」

 

 

内なる物語を表す手段は、今ではいくつもあります。

ブログの記事も、それなりに時間や集中力を費やして書いているわけですが、

「公開する」をクリックした瞬間の「解き放ったうれしさ」は格別です。

これが、クセになるということなのかしら?と思いながら、次なるネタを探し始めるようになりました。

探さなければ見つけられなかった物事。それが増えていくのも、楽しみのひとつです。