今週のお題「読書の秋」
「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」 ポール・オースター 編
ラジオ番組に全米のリスナーから寄せられた実話集であり、作家ポール・オースターが編んだアンソロジーでもあります。
「編者まえがき」に書かれている、この本の成り立ちがすでに、興味深い実話となっているのです。
たとえば月に1度、ラジオ番組で物語を語ってもらうことはできないか、という提案を受けたオースターは、
「自分の仕事をするだけでも精一杯なのに、他人の要請に応じて、定期的に物語をひねり出すなんて、できるわけがない」と、ことわるつもりでした。
ところが、奥様のシリ・ハストヴェット(この方も作家)は新提案を思いつきます。
「あなたが物語を書くことはないのよ。いろんな人にそれぞれ自分の物語を書いてもらえばいいのよ。リスナーの人たちから送ってもらって、一番いいやつをあなたが番組で朗読するのよ」
すばらしい逆転の発想!
オースターはラジオの聴取者に呼びかけました。
「物語を求めているのです。物語は事実でなければならず、短くないといけませんが、内容やスタイルに関しては何ら制限はありません」
その結果、1年間で4千通を超える投稿が集まり、多くの「一番いいやつ」がラジオ番組で放送され、さらに、オースターから見て最良の179話がアンソロジーに収められました。
物語は10のカテゴリーに分類されています。
動物、物、家族、スラップスティック、
見知らぬ隣人、戦争、愛、死、夢、瞑想
数行だけのシンプルな話、思わず笑ってしまう失敗談、不思議な偶然の一致、悲痛な出来事、あたたかな余韻の残る話、神や運命を感じさせる物語、O・ヘンリーの短編のような話――。
ちなみに、私のベスト5は、
「屋根裏で見つかった原稿」…まさに、O・ヘンリー
「ファミリー・クリスマス」…語り伝えられた1920年代前半のクリスマス
「マーケット通りの氷男」…毎週金曜日の夜、大量の氷を運ぶ都会のサンタ
「バレリーナ」…ラストの1行で泣いてしまう
「予行演習」…愛とユーモアがあふれる、母と娘のさいごの日々
いやまだ、あれもこれもいい。たくさんありすぎて迷います。
編者のオースターは、何度も何度も、投稿者からお礼を言われたそうです。
「物語を語るチャンスを与えてくれてありがとう」
内なる物語を表す手段は、今ではいくつもあります。
ブログの記事も、それなりに時間や集中力を費やして書いているわけですが、
「公開する」をクリックした瞬間の「解き放ったうれしさ」は格別です。
これが、クセになるということなのかしら?と思いながら、次なるネタを探し始めるようになりました。
探さなければ見つけられなかった物事。それが増えていくのも、楽しみのひとつです。