かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

カプセル(創作掌編)

 

 変わり者だが優しかった伯父が亡くなり、遺産としてカプセルホテルを相続することになった。

 今でこそ、スタイリッシュで快適な進化型が増えてきているけれど、僕が相続したのは、築25年を数える個性派のカプセルホテルだ。

 かつて伯父は、日本発祥のカプセルホテルが棺桶のようだと、海外から揶揄されていることを知り、

(それならば、いっそ……)と、思い立った。

「究極の安らぎ」をコンセプトに、独自路線を突き進んだのだ。

 

 カプセルベッドには、西洋の伝統的な棺をイメージしたデザインを取り入れた。見本として、海外から最高級の棺桶を取り寄せるほどの凝りようである。

  法規上、出入り口の密閉ができないカプセルベッドだが、仕切りのカーテンから、壁、床、天井まで、遮音と吸音の技術を駆使して防音性を追求した。また、就寝スペース全体に電波を遮断する施工をしたので、携帯電話やスマートフォンは使用不能だ。もちろん有線のインターネット接続もできない。

 カプセル内にテレビなどの電子機器は設置されておらず、夜間の照明は月光に近い0.3ルクス、目覚まし時計もアラーム音が鳴らない振動式だった。

 静謐を確保するために、便利さを捨てたというわけだ。

 

 新オーナーになった僕は、さっそく泊まってみることにした。

 カプセルホテルに宿泊するのは初めてだから、興味津々だ。カプセルベッドのなかは飲食禁止と聞いていたので、チェックイン前に夕食を済ませておく。

  創業時からの有能な支配人である羽生夫妻が出迎えてくれた。

 すでに伯父の葬儀で顔を合わせていたが、共に見事な銀髪だという以外は、年齢を感じさせない2人である。人材管理から建物内外のメンテナンスまで、すべてを取り仕切っており、ホテルにとって必要不可欠な存在なのだ。

 

 羽生夫人の案内で、ロッカールーム、個室タイプのシャワーブース、休憩スペースなどを見てまわったが、どこも清潔そのものだった。少数精鋭のスタッフによる、静かで整然とした仕事の成果だという。

 ここまで徹底しているからこそ、散らかしたり、騒がしい音を立てたりということを、各人が自粛し始めるのかもしれない。 

「オープン当初は、棺桶風のカプセルベッドが評判になり、ホラーファンのお客様が多かったのですが、今では、俗世間を離れてリフレッシュしたいというリピーターの方が主流になっております」

「ええ、わかります。僕も時々、押し寄せてくる情報を強制的にストップして、頭を休めたくなります。意志が弱いので実行できませんが」

 案内を済ませた羽生夫人は持ち場へと戻って行き、僕はシャワーを浴びてから寝支度を調えた。

 

 ベッドは寝心地がよく、ほかのカプセルで休む人たちの気配や物音も穏やかだ。

 それでも、なかなか寝付けない。

 気を紛らわす手段がないので、つまらないことをあれこれ考えてしまう。仕方なく僕は、浮かんでは消え、再び浮かびあがってくる考え事のループをそのままに、ひっそりと横たわっていた。

(一般的なホテルの部屋の設備は、便利さだけじゃなくて、退屈対策でもあるんだな。退屈を避けるために、僕はいつも、どれだけお金や労力を費やしていることだろう)

 時間が経つにつれ、まわりから聞こえていた身じろぎの音が、規則正しい寝息へと変わっていく。

 まるで、集合住宅の窓に灯る明りが、ひとつ、またひとつ、と消えていくようだ。

 寂しさと同時に、不思議な安らぎも感じる。だんだん呼吸が深くなり、僕はいつのまにか眠りに落ちた。

 

 翌朝、大人になってから初めてといっていいくらい、さわやかに目覚めた。

 休憩スペースでは、朝食サービスのパンとコーヒーが用意されている。プレーンなテーブルパンを味わっていると、近くの席にいた女性客の、

「ぐっすり眠れて、すごくリフレッシュした!」

「うん、リフレッシュのきわみだね」

 という会話が耳に入り、オーナーとして嬉しい気持ちになった。

 

 僕は上機嫌で自宅へ帰った。

 郵便受けに、伯父の顧問弁護士をしていた人からの手紙が来ていた。書類を整理していたら、オープン当日のカプセルホテルの写真が見つかった、と書いてある。

 キャビネ版というのだろうか、ハガキより少し大きめの写真が2枚、同封されていた。

 開店祝いのスタンド花が並んだホテルの全景を撮った写真である。建物自体はともかく、周囲の町並みが様変わりしていることに、25年という歳月を感じる。

 2枚目の写真を見て、僕は驚いた。

 オープニングスタッフが勢ぞろいしている記念写真で、まだ五十歳前後だった伯父のとなりには、羽生夫妻が立っている。

 その姿が、今現在とまったく変わらないのだ。

 

 もちろん、年齢を重ねても、見た目があまり変わらない人はいる。美しい銀髪も、昔はファッションとして染めていたのかもしれない。

 なにより古い集合写真だ。細部まで鮮明に写っているとは言いがたかった。

 しかし僕の頭は、突飛な思い付きでいっぱいになってしまった。

 たとえばギリシャ神話では、眠りと死は兄弟である。

「究極の安らぎ」がもたらさす眠りからの目覚めは、リフレッシュが極まって「リボーン」となったのではないだろうか。あのカプセルのなかでは、小さな死と甦りが繰り返されているのかもしれない。

 

 羽生夫妻は住み込みの支配人で、住居はカプセルホテルの地下にあった。

 もし、彼らが毎日、新しく生まれ変わりながら暮らしてきたとしたら、25年前からまったく年をとったように見えないのもうなずける。 

(奇跡のアンチエイジング・ホテルというわけだ。写真を羽生夫妻に見せて、僕の仮説が当たっているかどうか問い掛けてみたい)

 ばかげた妄想だとわかっていても、確かめずにはいられない衝動に駆られた。

 

 家を出て、再びホテルへと向かう。

 ところが、着いてみるとエントランスは閉じ、「本日休業」のプレートが出ていた。

(そういえば、この業界にはめずらしく、月1度の定休日を設けていると聞いたけれど、それが今日だったとは……。でも、羽生さんたちは館内に居るかもしれない)

 ぼくは、オーナーになったとき渡された鍵束を取り出し、建物のなかへ入った。

 

 地下へ降りていく。

 ボイラー室と電気室の先に、パーテーションで仕切られた住居スペースはあった。

 昨日、羽生夫人が案内してくれたときには閉まっていたドアが、今は開け放してある。

 声を掛けてみたが、返事は無し。

(ふたりで外出してしまったかな?)

 留守中に立ち入るわけにはいかない。それでも僕は好奇心を押さえられず、ドアの外から覗き込んだ。

 

 大きな四角い部屋を、コーナーごとに使い分けているようだ。

 バスルームだけは囲われているけれど、それ以外は壁で区切っていないので、全体が見渡せた。

 手前はダイニングとキッチン、その向こうが、落ち着いた雰囲気のリビングだ。いちばん奥は、寝室のコーナーとなっていて、シンプルなベッドが2台並んでいるのが、薄明かりの下で見てとれた。

 人の気配はない。

(やっぱり、明日にでもまた出直そう)

 その場を離れようとしたが、ふと違和感を覚えて振り返る。

 

 あれは、ほんとうにベッドだろうか……?

 ベッドにしては、奇妙な形状だ。

 僕はじっと眼をこらし、そして、思わず息をのんだ。

 寝室に並んでいたのは西洋の伝統的な棺で、その蓋は閉じられていた。

 

 

ノマドカフェの窓

 

 月末から月初にかけての数日間は、仕事がいつもより忙しいので、あまりブログ記事を書けませんでした。

 それでいながら、休日になると緊張が解けてぐだぐだになってしまい、パソコンに向かっても気力が湧きません。どうせなら、やることをやって心置きなく、ぐだぐだしたいものです。

 思いついた解決策が「場所を変えること」。

  

ノマドカフェ」で検索してみると、近所にもいくつかそういうカフェがありました。

 お店を決めたら、残る問題はノートパソコンを外で使う方法です。 

 Wi-Fi無線LANなのは知っていますが、実際にはどうすればいいのか…? 調べていくうち、スマホのデザリングを使えばいいことがわかりました。

「デザリング」とは、スマホをパソコンなどの電子機器と接続することで、インターネットが利用できるようになる機能のことです。接続方法は、Wi-Fi接続、Bluetooth接続、USB接続の3種類があります。

 もっとも簡単で、今回の利用に向いていたのが、USB接続でした。

 USBテザリングはほかの2つに比べて、パスワードの設定などをする必要もなく、USBケーブルさえあれば簡単に接続できます。

 

 いろいろ調べる手間ひまを、ブログ記事のほうに費やせばいいような気もしますが、こういうのも「別腹」なのかもしれません。

 いつもよりスピードアップして家事を済ませ、ノートパソコンをバッグに入れて出発しました。

 とても静かで落ち着いた雰囲気のカフェでした。

 パソコンで作業している人が多く、お客同士の会話もほとんど聞こえてきません。

 

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 下調べして決めておいた「ミニソフトセット」がとてもおいしかったです。

 

 私は場の雰囲気に影響を受けやすいので、2時間ほど集中してパソコンに向かうことができました。

 

 ノマドnomad)は「遊牧民」を意味する言葉です。ノートパソコンなどを持ち歩き、決まったオフィスではなく、Wi-Fi環境や電源コンセントのあるさまざまな場所で仕事する人を「ノマドワーカー」と呼ぶそうです。

 私のパソコンに「ノマド」と入力したら、「の窓」と変換されました。

 

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ノマドカフェの窓」

隣の人が席を立った隙に、あわてて撮ったのでブレてしまいました(笑)。

 

観天望気~ハヤさんの昔語り〔第二幕〕⑧~(創作掌編)

 

「観天望気」

 書いた文字を見せながら読みあげると、ハヤさんが首をかしげて言った。

「カンテンボウキ……、これまで使った記憶のない言葉です」

 私も同じだった。今日、仕事で気象予報士の人と話す機会があり、仕入れてきたばかりの知識だ。

 

 観天望気とは、自然現象や生き物の行動を観察して、天気を予測すること。

  • 月に暈(かさ)が掛かると雨
  • きれいな夕焼けの翌日は晴れ
  • 鐘の音が良く聞こえるときは雨
  • アマガエルが鳴くと雨
  • ツバメが低く飛ぶと雨
  • ネコが顔を洗うと雨

 どこかで聞いた覚えのある「お天気のことわざ」も、観天望気の一種だ。

 

「それぞれ根拠があるのよ。たとえば、鐘の音。地上で発せられた音は、上空に暖かい空気が広がっていると、大きく屈折して遠くまで届くから、良く聞こえるんですって。そして、上空が暖かいときは前線が近いことが多いので雨が降りやすい、というわけ」

「なるほど。毎日のように鐘の音は聞こえるし、猫も顔を洗うけれど、普段とのちょっとした違いを、天気と結びつけた経験則ですね」

「昔のひとの知恵よね。もしかして、寸一の得意分野だったんじゃない?」

 

 寸一は江戸から明治にかけて生きた行者で、ハヤさんの「前世」だ。

 何かのきっかけで、寸一だった時代の記憶が浮かびあがると、ハヤさんの昔語りが始まる。

「たしかに得意分野といえそうですね。でも、僕が寸一だったとき住み着いていた土地には、その観天望気に長じた家系があったものですから──」

 

   △ ▲ △ ▲ △

 

  サチは幼いころに母を失い、去年十五で父を亡くしたが、気丈にも家業を続ける決意をした。

 家は代々、天気の先読みを生業としており、伝書も多く蔵している。ものごころがついてからずっと父親のそばで学んできたので、やり方はわかっていた。

 

 毎日、決まった刻限に丘へ登って空模様を眺める。

 木々や草花の変化を見逃さず、身近な生き物に注意を払い、それらを簡にして要を得た言葉で書き留める。

 サチは寝る間も惜しんで家にある文書を読んだ。そして、わからないことがあればその都度、寸一に教えを請いに行った。

 その甲斐あってか、天気の読み方を大きくはずすことはなく、案じて見守っていた人々の信用をつなぎとめることができたのだ。

 

 ところが、そんなサチの評判を聞き、よからぬことを企む二人組の小悪党がいた。

「たかが小娘が、やすやすと天気を先読みしてしまうとは、おかしな話だ」

「噂では、あの家には秘伝の書というものがあるらしい。そいつがあれば俺たちでも、天気を言い当てられるに違いない。米相場で大もうけできるぞ」

「うまく言いくるめて上がりこみ、少々おどかして娘の手に端金を押しつけてから、伝書を持ち出そう。盗むのではなく買い取ってくるのだ」

 示し合わせて、サチの家を訪れたのであった。

 

 物堅い商人のような身なりで、愛想笑いを浮かべた二人を、サチは用心深く迎えた。

 昔、亡き父と懇意にしていたと言い、仏壇に手を合わせる姿に、何とも言えず胡散臭いものを感じる。そこでサチは、煮炊きの手伝いに来ていた近所の女房に耳打ちして、人を呼んでくるように頼んだ。

 

 悪賢い男たちが目を付けたのは、文机に置かれた一冊の帳面だった。病を得た父親が、サチのため懸命に書き残した手引書である。

 やにわに本性を現した男がサチの手をつかみ、無理やり包み銭を握らせる一方で、もう一人は素早く立ち上がり、文机の書に手を伸ばす。

 サチが鋭い声をあげたとき、外から轟くような音が聞こえてきた。

 突如として吹き出した強い風が、壁にぶつかって家を揺るがし、引き戸を吹き飛ばしたのだ。

 開いた戸口から、数え切れないほどの生き物が、風と一緒に飛び込んでくる。

 驚いて棒立ちとなった男たちの顔を目掛け、蛙が次々と跳びつく。燕は低く飛び回って嘴でつつき、猫は威嚇の鳴き声をあげながら、爪を立てて襲いかかった。

 

 知らせを聞いて駆けつけた近所の人々が見たものは、無我夢中で逃げ去っていく男たちと、座敷でただ一人、父の手引書を胸に抱いて立っているサチの姿だけであった。 

 

   △ ▲ △ ▲ △

 

 私は、ほっとして大きく息をついた。

「ああ、よかった。小さな生き物たちが、サチを仲間として守ったのね。昔の気象予報士は、それくらいしっかりと土地に根付いていた、ということよね」

「そうですね。実は、この話には後日談があって━━」

 

 寸一のもとへ、弥四郎というサチの幼なじみが訪ねてきて、

「いつもサチと二人きりで長いこと過ごしているが、いったいどういうつもりでいるのか」と、問い詰めたのだ。

「どういうつもりも何も、ただ質問されたことに答えていただけですよ。それに寸一は、サチの父親より年が上だったんです。しかし、口さがない人たちが変な憶測をして噂になっていたらしく、弥四郎は心配でならない様子でした」

 ハヤさんが苦笑する。

 

「あら、弥四郎さんが心配するのも当然だわ。それで寸一は、どう申し開きしたの?」

「申し開きって、どうして瑞樹さんまで詰問口調になるんですか。寸一は弥四郎に、サチに惚れているのなら直接気持ちを確かめればいい、直談判の相手が違うだろう、と説教しました。……そして、自分の心は常に、今はこの世にいない大切な人と共にあるのだから、邪推無用だとも言いました」

 私はあたたかい気持ちになって、ハヤさんに笑いかけた。

 いかなる世であっても、恋しい相手の心が「秋の空」になってしまうことを、人は心配するのだろう。

 

 寸一の説教をくやしそうに聞いて帰っていった弥四郎は、そのままサチの家へ向かったそうだ。

 サチは、危機を救いに駆けつけてきた人々の先頭に、弥四郎がいたことを覚えていた。

「あのときの弥四郎さんは、今まで見たことがないほど怖い顔をしていた。とても、頼もしかった……」

 と、頬を染めるサチに、ようやく弥四郎も素直な気持ちを伝えることができたのだった。

 

 

 

エアコンから水がたれてきました。

 

先週のことになりますが、朝起きてふと見たら、床に数センチ大の水たまりができていました。

ちょうどエアコンの真下です。大さじ1杯くらいの量ですが、ギョッとしました。

拭き取るそばから、またポタリ…。

水受けの器を置き、音が気になるので、底に雑巾を敷きました。

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ちょうどお盆休みの真っ最中だったので、修理が必要な状態なら大変だと思いました。

そういえば去年も、5月の連休中にエアコンから異音がしてびっくりしましたが、無事に解決したのでした。

 

toikimi.hateblo.jp

 

必ず、同じことで困っている人がいるはず、解決法もあるはず、とネット検索してみると、たくさんの情報を見つけることができました。

エアコンから水がたれる原因の大部分は「ドレンホース関連」なのだそうです。

レンホースとは、エアコン内部の水を外に排出するための排水管のことで、詰まってしまうと水が逆流し、エアコンから室内にたれてきます。

 

自力で出来る対処法は以下の3つでした。 

  • レンホースの先になにか障害物があり、水が流れにくくなっているようであれば位置を変える。
  • レンホースの排出口を確認し、ごみや枯れ葉、虫などが詰まっていた場合は、割りばしなどで取り除く。
  • レンホースには、エアコン室内機から発生するドレン水と一緒に、部屋のホコリや汚れも流れるので、それらがホースのどこかでたまると詰まってしまうこともある。その場合は「ドレンホース用サクションポンプ」などを使って詰まりを除去する。

 

「ドレンホース用サクションポンプ」は、1,000円~3,000円くらいで市販されていました。

ところが、さっそく発注したものの、商品が到着する前に、エアコンからの水もれは収まってしまいました。猛暑と多湿、台風の影響による強風という、特殊な条件下で起きた現象だったのかもしれません。

けれど、再発予防のためにも、ドレンホースの詰まり取りはしておこうと思いました。

 

ネットの画像で見ると大きさの見当がつきにくかったのですが、マウスと比較してこれくらいです。 

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使用方法:ノズルをドレンホースの先端にしっかりと差し込み、ハンドルを強く引いてホースの詰まりを取り除きます。

 

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ノズルは取り外せます。ドレンホースのφ14、φ16(内径)に対応しています。

 

ネットのクチコミを参考にして、エアコンをしばらく停止し、ドレンホースからの排水が途切れてから、作業を開始しました。

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f:id:toikimi:20190819181437j:plain ノズルを差し込みます。

 

【注意事項】ポンプのハンドルは引くだけにして押さないようにすること。

商品説明には特に書かれていなかったのですが、押してしまうとエアコン室内機側にたまった水が押し出され、基板などを濡らして故障の原因にもなる、という情報があったので、十分に気をつけながら、何回かハンドルを引きました。

 

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水と一緒に細かいゴミが出てきました。

 

 「これでよし!」とは思うのですが、すでに水はたれなくなっているので、検証できないのが残念です。

 

 

 

シャンパンタワー(創作掌編)

 

 めったに乗らないタクシーで、私は結婚披露パーティの会場へ向かった。

 スピーチの原稿を何度も読み返し、

(道が大渋滞して、たどりつけなければいいのに)と考えていたら、むしろ早めに到着してしまった。

 ホテルのエレベーターが故障して閉じ込められる、というアクシデントも起こらない。

 エレベーターの扉が開くと、迷う間もなく受付を見つけたのだが、そこに立っていたのは、ウサギのかぶりものを着けたタキシード姿の2名だった。

 白いウサギと、茶色いウサギである。

 

 新婦は私の親友で、新郎は数年来の仕事仲間だ。

(どっちのこともよく知っていると思ってたけれど、こういう趣味があったとは……)

 まだ早い時間のせいか、ほかに人の姿は見えない。

 驚きを顔に出さないようにしながら、型通り挨拶してご祝儀袋を差し出すと、ウサギたちは、なぜかおもしろそうにクスクスと笑い合った。

 失礼というより、ひたすら奇妙な感じである。

 大きく《抽選券》と書かれたカードを受け取り、どこからともなく現れた案内係の男性に先導されて受付を離れた。

 

 パーティ会場に入るなり、自分の間違いに気づいた。

 正面の壁には、大きなスクリーン、

 そして、

『第5回 海外おもしろ動画 愛好家の集い』

 という横断幕が掲げられていたのだ。

 スクリーン横には、見あげるようなシャンパンタワーが設置されている。

 ピラミッド型に積み上げられたクープグラスは、すでにシャンパンが満たされ、スポットライトを浴びて金色に輝いていた。

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 各テーブルで朗らかに語り合っている「愛好家」たちのようすを見ると、まさに宴たけなわという感じだ。仮装している人も少なくないようで、なかにはウエディングドレス姿の女性もいる。遊び心にあふれた集まりのようだ。

(受付のウサギたちは、私のことを結婚式の招待客コスプレだとでも思ったのかしら? いやいや、そんなことはどうでもいい。降りる階を間違えたんだわ。ご祝儀袋を返してもらって、正しいフロアに行かないと)

 ところがその瞬間、ふいに照明が暗くなり、ドラムロールの音が響き始めたのだった。

 

 スクリーンに、『会長』という名札を着けた人物の姿が映し出される。

 知的な顔立ちの紳士だが、ブロンドの巻き毛にリボン、青いエプロンドレスで『アリス』の仮装をしていた。

「これより、シャンパンセレモニー遂行者の抽選を行います」

 厳粛な面持ちで宣言すると、抽選箱に手をいれてかき混ぜ、ゆっくりと1個のカラーボールを取り出す。ボールには3桁の数字が書かれていた。

 

 会場中の人がいっせいに、ボールの数字と手元の《抽選券》とを見比べる。

 つられて私も、受付で渡されたカードに目をやった。

 ……同じ数字だ。

「おめでとうございます」

 声をかけられて振り返ると、さきほどの案内係がほほ笑みながら立っていた。彼が合図したのだろうか、私の真上だけライトが点灯し、歓声と拍手がわきおこる。

『アリス』姿の会長も、テーブルのあいだをぬって駆けつけてきた。

 

「すみません、ちがいます!」

 と、あわてて説明する。

「私は会場を間違えて、ここに来てしまったんです」

 ところが驚いたことに、会長を始め愛好家たちは大喜びである。おもしろ動画を愛する人びとは、ハプニングが大好物らしい。

「これも何かのご縁です。よろしければ、ぜひお付き合いくださいませんか? 3分とかからないセレモニーですので」

 と会長が言い、再び拍手と歓声が起こる。

 押し問答をしているより、そのセレモニーというものをやってしまったほうが早く戻れそうだ、と私は判断した。

「わかりました。で、何をすればいいんですか?」

シャンパンタワー崩し、です」

 

 美しく積み上げられたシャンパンタワーから、ある特定のグラスを取り去ると、ドミノ倒しのように他のグラスが落ち始めるらしい。最初の1、2個はゆっくりだが、みるみる連鎖はひろがり、さいごには雪崩を打ってシャンパンタワーが崩壊する。

 それは、わずか十秒ほどのスペクタクルだという。

 

 人びとが席を立ち、スマートフォンやカメラを手に、それぞれの撮影ポイントへ移動し始める。

 撮影準備が整うのを待っている私のところに、案内係がやってきた。透明なレインコートを手にしている。

「特殊な加工を施してあるグラスですので、お怪我の心配はありませんが、シャンパンは本物ですから、そのままではドレスが台無しになってしまいます」

 

 一瞬のうちに、私の頭の中を、さまざまな考えがかけめぐった。

 

 今日、結婚するふたりを引き合わせたのは、この私だ。

 私の職場近くで親友と落ち合って、ランチの店を探していたとき、たまたま仕事仲間の彼と一緒になったのだ。

 ふたりはあっという間に意気投合し、半年も経たないうちに結婚が決まった。

 もちろん、私が彼に思いを寄せていたことは知らないままで━━。

 そう遠くないいつか、素直にふたりを祝福できる日が来ると思う。

 とはいえ、結婚披露パーティで、縁結びのキューピッドとしてスピーチをリクエストされたのには、心底参った。

 傷口に塩を塗るようなめぐりあわせだ。

(なんとか笑顔で乗り切るつもりだったけれど……、でも、シャンパンを全身に浴びてしまったら、披露宴に出席するどころじゃないわよね)

 

 決意した私は、案内係に向き直った。

「ハプニング動画を撮ろうというときに、あらかじめレインコートなんて着ていたらネタバレになりそうですね」

 すると『アリス』会長が、我が意を得たりとばかりに、一歩進み出た。

「おっしゃる通りです。当然のことですが、クリーニング代、いえ、ドレス代は弁償いたしますので」

「そうしていただくと助かります。ただし、どれだけ拡散してしまうかわからない動画に顔を晒すのは控えたいので、受付のかたからお借りしたいものがあります」

 

 かぶりものを着け、ドレスアップした白ウサギの格好で、シャンパンタワーのわきに立つ。

 期待に満ちあふれた人たちの視線を一身に受けていると、お腹の底から笑いがこみあげてきた。

 時が流れれば、つらかった出来事も笑って思い出せるというけれど、今回は、同時進行で笑い話に変わっていくようだ。

 

 

願い事の速度(創作掌編)

 

 1泊2日の社内研修では、着いた日の夜に「星見イベント」が予定されていた。ペルセウス座流星群の出現期間ということらしい。

(流れ星 3度唱える 願い事)

 妙な俳句調の言葉が頭から離れなかった。どうしても叶えたい願いがあるせいだ。

 

 私の願い事は3つ、というより3段階で、まず第1が社内研修で開催される企画コンテストでの優勝だった。

 そして、その優勝賞金を先日支給された賞与に足して、引っ越し資金に当てる。

 今、住んでいるワンルームの賃貸契約は更新時期が半年以上先なのだが、なるべく早く「ペット可」の部屋に移りたいのだ。

 それが第2段階の願い事。

「ペット可」の賃貸物件は賃料が割高だ。コンテストの賞金は、さまざまな出費を補えるほど高額ではないけれど、二の足を踏んでいる背中を押すきっかけになってくれる。とりあえず引っ越してしまったら、あとは節約に努めて、なんとかやっていけばいい。

 

 晴れて準備が整ったら、ブンタを迎えにいく。それこそが願い事の最終目標だった。

 ブンタは、私が就職して親元を離れたとき、

「生活が落ち着いたら、いっしょに暮らそうね」

 と約束して、実家に残してきた愛犬である。約束を忘れたことはないけれど、仕事に追われているうちに時間ばかりが過ぎてしまった。

 

「ブンタはすっかり元気がなくなった」

 このあいだ、母が電話で言った。

「え? でも、5月の連休に帰ったときは、あんなに元気だったのに」

「あれはね、あなたに会えてはしゃいでいただけ。あなたが帰ったあとは、しょんぼりしちゃって、ごはんもあまり食べないのよ」

 胸を突かれる思いがした。

 私には、あっという間の1年半だったけれど、ブンタにとってはどうだろう。ブンタと私では、年を取っていくスピードも、残された時間の長さも違うのだ。

 

 それからというもの、インターネットの賃貸物件サイト検索と、企画コンテストのプレゼン資料作りに熱中する毎日だった。

 

 星見イベントの会場は、空を広く見渡せる高台にあり、リクライニング式のアウトドア・ベッドまで用意されていた。人工の明かりはもちろん、月明かりも少なく、流星を観察するための好条件がそろっている。

 主催者の説明によれば、1時間に10個から20個の流れ星が期待できるそうだ。

 満天の星に感激したまわりの人たちから、ため息や歓声が聞こえてきたが、私はすでに真剣モードである。

 まずは「賞金賞金賞金」だ。「優勝優勝優勝」と迷ったのだが、「賞金」に決めた。何度も小声で練習する。

 

 ところが……、実際にやってみると至難のわざであった。

 いつ現れるか予測できず、見つけてはっとした瞬間に消えてしまうのが流れ星というものだ。最初の1つは「賞金」の「し」の字も出てこなかった。

 いくつか同じように見過ごしてしまったあと、ようやく、

「しょうきん、しょ……」まで言えたものの、次はまた、タイミングを捉えられず見送るだけ。

 しだいに焦りがつのり、冷や汗がにじんできた。

 

(落ち着いて! まだ時間もチャンスも充分にあるから)

 自分に言い聞かせながら、あえて目を閉じて深く息を吸った。

 静かに見開いた視線の先に、ひときわ明るい星が、尾を引きながら流れていく。

「ブンタブンタブンタ」

 と、思わず唱えていた。同時に熱い思いがこみあげてくる。

(そうだ、とにかくブンタを迎えに行こう。ブンタを迎えに行って、まずそこから始めよう)

 

 その後も星見イベントは続いたけれど、涙でにじんだ目には、流れ星を捉えることができなかった。そのかわり、ぼやけた星空をバックにして、嬉しそうにかけよってくるブンタの姿が、繰り返し浮かんだ。

(このイベントが終わったら、不動産屋と、それからレンタカーも予約しよう。社内研修のあとは休日だから、ブンタを車で迎えに行って、そのまま戻って不動産屋さんと落ち合って、「ペット可」の部屋を一緒に内見してまわろう)

 きっとブンタには、私の本気が伝わるはずだ。

 もし部屋が見つからなくても、次の週もその次も、見つけるまであきらめない。

 

(社内コンテストの優勝を決めるのは、お盆休み明けの役員会議だとか。とても待っていられない。そんな賞金を当てにするより、いざとなったら親に借金してでも……)

 と、決意を新たにする。

 星空をかけめぐるブンタの幻影を、幸せな気持ちでながめていると、ふと違和感を覚えた。冬のアルプスで山岳救助犬がラム酒の小樽をぶらさげているように、ブンタも首から何かさげているのだ。

 小樽ではなく、缶詰型の500円玉貯金箱だった。

 子供のころ買ってもらって、コツコツと貯金していたことを思い出す。 

(そういえば、かなり重かったから、実家を出るとき持ってこないで、そのまま置いてきたんだった。すっかり忘れていたわ)

 流れ星にかけた願い、早くも叶い始めているような気がした。

 

 

蚊帳体験

 

両親とも東京の生まれだったので、「夏休みに泊まりがけで田舎に行ってきた」という友だちをうらやましく思っていました。

それでも一度だけ、叔母の配偶者(義理の叔父)の田舎へ連れて行ってもらったことがあります。

 

三世代同居の大きな家で、叔母夫婦と私の他にも親戚が来ていてにぎやかでした。

私にとっては、それまで会ったことのない人ばかりです。

年が近い子供もいたのですが、その子たちと遊ぶより、広い庭でひたすら自転車の練習をしていたことが記憶に残っています。ちょうど、補助輪を外して自転車に乗る時期だったのです。

 

夜になると、生まれて初めて、目がふさがれるような真っ暗闇というものを体験しました。

私たちが泊まった部屋は、長押に正装したご先祖さまの遺影が並ぶ和室で、蚊帳がつってあります。叔母が蚊帳に出入りするときの「作法」を教えてくれました。

蚊が中に入ってこないよう、まず、うちわであおいで追い払い、さらに蚊帳の裾をばさばさと揺らしてから少しだけ持ちあげ、素早く身をかがめてくぐり抜けること。

けれど、私がおもしろがって何度も出たり入ったりしたものですから、ずいぶん蚊を蚊帳の中に招き入れてしまったと思います。

 

そのうち叔父が、

「蚊帳には幽霊が出るんだぞ」と言ってからかい、私が怖がると、

「幽霊が出るのは白い蚊帳。これは緑色だから大丈夫なのよ」

叔母が機転を利かせてなだめてくれました。説得力のある言葉に安心し、私は蚊帳の中で眠ることができたのです。

 

どうして、兄弟のなかで私だけが、田舎へ連れて行ってもらえたのか、そのときは疑問に思いませんでした。

子供のいない叔母夫婦が、私を養女にすることを考えていて、しかしその話は、当時同居していた祖母の「内の孫はよそへやらない」という一言で立ち消えになった、と知ったのは、ずっとずっと後のことです。

 

気が強く、頭がよく、美しかった叔母も、今年の三月に他界しました。

亡くなる一年ほど前から、電話でしゃべる機会が増えたのですが、この蚊帳の話はしなかったと思い、文章として残したくなりました。