かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

『クリミナル・マインド』の格言(補足)日本のことわざ

 

以前、海外ドラマ『クリミナル・マインド FBI行動分析課』の、始まりや終わりのシーンで引用される格言について記事を書いたのですが──、

 

toikimi.hateblo.jp

 

➃英訳→再和訳で原形がわからなくなった気がすることわざ。

シーズン8 第6話「殺しの教室」
独学で千日学ぶより、一日良き指導者につけ。(日本のことわざ)

 

この「日本のことわざ」が何なのか思い浮かばず、ずっと頭の隅に引っかかっていました。

 

ところが、ふと、英語ではどう言っているのかな?と思い、いつもは吹き替えでしか観ない『クリミナル・マインド』を字幕で視聴したところ、ちゃんと画面に出ていたのです。まさに「灯台下暗し」でした。

 

 “Better than a thousand days of diligent study is one day with a great teacher”

 – a Japanese proverb

 

  千日の勤学より 一時の名匠

 (せんにちのきんがくより いちじのめいしょう)

 

出典は、『諺草』(ことわざぐさ)、筑前国福岡藩に仕えた儒者、貝原好古(かいばら・よしふる)が江戸中期の元禄12年(1699)に著した諺や俗語の解説書。

意味は、独学で千日も勤勉に学習するより、短期間でも優れた指導者について学ぶほうが効果があがる、ということ。

同類のことわざとして「三年学ばんより三年師を選べ」があるそうです。

 

とはいえ「逆も真なり」で、孔子ソクラテスレオナルド・ダ・ヴィンチなど、偉大な独学者も数多く存在します。

名匠(優れた師)の方は案外、独学者だったりするのかもしれません。

 

この格言が冒頭に出てくる、シーズン8第6話「殺しの教室」では、事件とは別のエピソードとして、BAUのプロファイラー、デレク・モーガンが、同僚のDr.スペンサー・リードにソフトボールの練習を強要するシーンがあります。

アメリカンフットボール奨学金で大学に進学し、柔道は黒帯というスポーツ万能のモーガンと、IQ187、数学・化学・工学の博士号を持つ天才リードは、兄弟のように仲良し。

「子供のころからスポーツには、イヤな思い出しかない」とぼやくリードは、

「重力プラス空気抵抗プラス浮力、後はスイングの速度を調整すれば……」

物理の数式らしきものを計算しながら、バッターボックスに立ちます。

そこで、モーガンが言い放つ台詞が、

 

 “Don't think.just feel”

 「考えるな、感じろ」

 

 映画『燃えよドランゴン』(1973年)に出てくる、ブルース・リーの名言です。

モーガンのアドバイスによりリードは、FBI対シークレットサービスの試合本番で、見事な結果を出しました。

 

ちなみに、第6話ではラストでもうひとつ格言のナレーションが入るのですが、それは、

他人のためにできる最高のことは、自分の財産を分け与えることではなく、相手の持つ財産に気づかせること

 ベンジャミン・ディズレーリ (イギリスの政治家、小説家)

 

 

種から山桜を育てる『ミニ盆栽』

 

『かえるさんの星占いらぼらとりー』というブログで、日々、ヒントとギフトをいだたいていますが、このあいだ、趣味に関してのキーワード、

 “植物等を「育てる」、チェックをする”

を見たとき、あることを思い出しました。

 

www.kaerusan01.com

 

一昨年、友人から引越し祝いに、『ミニ盆栽』~山桜を育てる栽培セット~をもらいました。

ミニ盆栽とは、背丈が10cm以下で、掌にのるサイズの小さな鉢植えのこと。マンションなど庭のない家でも楽しめるので、年齢や性別を越えて人気らしいです。 

けれど当時は、心身ともに余裕が無く、しまい込んだまま失念していました。

  

f:id:toikimi:20181028140731p:plain

ラッピングされた状態でも、文庫本的なサイズ感です。

 

f:id:toikimi:20181028140745p:plain

【セット内容】

鉢・培養土・説明書・種・鉢底アミ

 

 f:id:toikimi:20181027141314j:plain

種は5つ

説明書を読んで、たじろぎました。

 

はじめに(山桜は発芽の難易度の高い商品です。) 

 

私は、栽培が容易といわれるポトスを枯らしたことがあります。心もとない限りです。

 

1.種まき前の下準備

 山桜は種まき前に、種を冷蔵庫へ入れ、冬を(疑似)体験させます。
※種まきは、発芽時期が真冬と真夏にならないように逆算し、タイミングを合わせて行ってください。
 秋に種をまいた場合は、翌年の暖かい時期に発芽する事があります。
 種をまいた時期・環境によっては、発芽に1~2年かかる場合があります。

【冷蔵庫での低温期間】 1~3ヶ月
【発芽適温】 15~20℃
【発芽日数】 1~3ヶ月
【 開 花 】  4年以上

 

タイミングを合わせて、と言われましても、発芽日数が1~3か月、場合によっては1~2年ともなると、私の頭では逆算不能です。これも難易度の高さの内ということでしょうか。

それでも「思い立ったが吉日」というわけで、種を冷蔵庫へ入れました。

 

そういえばたしか、山桜を詠んだ有名な歌があった、と思ったら覚え違いで、

やまざくら、ではなく、あだざくら、でした。

 

 明日ありと思ふ心の仇桜、夜半(よわ)に嵐の吹かぬものかは

 

親鸞上人が九歳の時、得度を受けるため慈円僧正のもとを訪れたところ、すでに夜も更けていたので、

「もう遅いから明日にしよう」と言われ、その際に詠んだ歌だと伝えられています。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村

 

 

 

「カラス語」の研究

 

ずいぶん前のことですが、カラスのことばを聞き分ける女性を主人公に、掌編を書きました。
toikimi.hateblo.jp

 

先日、朝の時間にラジオを流していたら、旬の話題のコーナーで「カラス語」の研究者について取りあげていたので、引き込まれて傾聴しました。

「事実は小説より奇なり」というか、進化しています。

 

「カラス語」を研究しているのは、総合研究大学院大学助教、塚原直樹氏です。

研究を始めてから15年間で、2000以上の鳴き声を収集し、カラスの行動と照らし合わせて分類、犯罪捜査にも使われる「声紋」で視覚化して分析した結果、現在では40種類以上の「カラス語」が特定されているそうです。

 

代表的な「カラス語」が3つ紹介されました。

文字にするとわかりにくいのですが、

「カー、カー、カー」というのが、あいさつ

「カッ、カッ、カッ」が、危険、仲間に警戒を呼びかける

「かぁ~~、かぁ~~」は、安心、ねぐらに帰ろう

のような感じでした。

 

カラスについては、ごみ集積場所を荒らす以外にも、農作物への被害が深刻で、被害額は全国で年間16億円を超えるそうです。

専門家である塚原助教へも相談が寄せられ、それに応えて行ったのが、「カラス語」を使ってカラスを誘導する、という実験でした。

カラスが群がる街路樹に向けて、「カラス語」で「危険だよ!」という鳴き声を流し、少し離れた場所では「安全だよ~」という鳴き声を流したのです。

作戦は成功、街路樹のカラスを誘導することができました。

 

実用化に向けて、さらなる研究を進める塚原助教ですが、「カラス語」を使った誘導作戦は、学習能力の高いカラスとのだまし合い、知恵くらべだと、研究対象への対等感あふれるコメントが印象的でした。

 

ラジオを聴いているあいだも、外ではしきりにカラスが鳴いていました。

習いたての「カラス語」によれば、「カー、カー、カー」で、朝のあいさつだとわかりました。

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村

 

 

魔法ラベル(創作掌編)

 

 ハロウィンの仮装パーティに招かれた佳奈は、衣装を買いに出かけた。

 店内をひととおり見て回り、魔女になろうと決める。帽子とマントのセットを選んで、レジへ向かう途中、パーティグッズのコーナーで足が止まった。

『魔法ラベル』というのが気になる。

 他のグッズに比べて高価なわりに、残っているのは1点だけだから、売れ筋商品のようだ。

 パッケージの説明文によれば、ラベルはグリーン、ゴールド、ローズの3枚×2組。水の入ったペットボトルに貼りつけて、所定の呪文を唱えると、中身がラベルと同じ色に変化するらしい。地味ながら、ちょっと本格的な感じだ。

(理科の実験みたいでおもしろそう)と、衝動買いした。


 パーティ会場は、貸切にした町のレストランだった。

 衣装を身に着けた佳奈は、クリスタル・ワンドをマントのポケットに差し、途中で買ってきたミネラルウォーターのペットボトルをテーブルに並べた。

 使用説明書によれば、『魔法ラベル』には要注意事項が3つある。

Ⅰ.ラベルは直に貼りつけてください!(ボトルのフィルム等は剥がすこと)

Ⅱ.混ざると危険です。1本のボトルにラベルは1枚だけ!!

Ⅲ.決して人体には貼らないでください!!!

 

 3色すべて試してみたかったので、ペットボトルは3本用意した。フィルムをはがしていると、仮装した仲間たちが、何事かと寄ってくる。

 ラベルはどれも深みのある美しい色合いで、神秘的な幾何学模様が描かれていた。直にボトルに貼ると、思いのほか見栄えがする。

 呪文はラベルの台紙に書いてあった。

 面白いことに、それぞれの色で「効能」が決まっているらしい。グリーンのラベルの呪文は、冒頭の『健康』という言葉に続いて、意味不明の文言がカタカナで記されていた。ゴールドは『富貴』、ローズは『愛』。

 

 半信半疑で呪文を読みあげながら、演出としてワンドの先でボトルに触れた瞬間、中の水が輝くようなエメラルドグリーンに変わった。

 周囲から、「おー」という感嘆の声があがる。

 佳奈も内心おどろいていた。残った2本も次々に、魔法の呪文で色を変えてみせると、拍手がわいた。

 

「この水を飲むと、健康になれるの?」

 グリーンのボトルを手にとって、ダース・ベイダーが聞いてくる。

 中身の彼は、秋の健康診断で再検査の通知が来たといい、今夜はノン・アルコールのビールで乾杯していた。

「使用説明書にはひと言も『飲むな』とは書かれていなかったけれど、まぁ、自己責任でお願いします。でも、飲むとしたら1種類だけにしてね。混ぜるのは厳禁なので」

 ベイダー卿は『富貴』も『愛』も捨てがたかったらしく、散々悩んだ末にやめてしまった。

 みんなで大笑いして、パーティは楽しく盛り上がった。

 

 

 翌日、部屋でくつろいでいるとき、ふと、持ち帰ったパーティグッズのことを思い出した。

 残った1組の『魔法ラベル』は、大成功だったパーティの記念品だ。

 テーブルの上に3枚のラベルを並べ、使用説明書をながめていると、ある衝動がじわじわとわいてくる。昔話の「見るなのタブー」と同じで、強く禁止されればされるほど破ってみたくなる、という心理状態だろうか。

(どうせ禁止を破るなら、ラベル3枚を同時に、直に、体に貼って、健康・富貴・愛をすべて手に入れる、というのはどうだろう……)

 などと考えているうちに、気がつけば、窓の外は暗くなっていた。


 何時間も妄想にふけっていたことに苦笑いしながら立ちあがり、キッチンに行って冷蔵庫を開けた。

 缶ビールを取ろうとして、伸ばした手が止まる。

 魔法ラベルを貼った3本のペットボトルが、ドアポケットに並んでいたのだ。

「こんなものまで持って帰ってきたんだっけ」

 貼りつけたラベルは、すっかり色あせて白っぽくなっている。それにしても、朝から何度か冷蔵庫を開け閉めしているのに、気づかなかったとは奇妙なことだ。

 中の水を捨てようとして、ちょっとした考えが浮かんだ。

(混ぜたらどうなるのか、実験してみよう)

 洗面台のシンクへ運び、排水口を栓でふさぐ。

 目をあげると、鏡に映った自分の顔に、どこか魔女めいた微笑みが浮かんでいた。

 

 ペットボトルのキャップをはずして、一気に注ぎいれた。渦を巻きながら、3色の水が混ざりあっていく。

 まるで虹を流しこんだようだ、と思った直後、水はなんともいえない色に変化した。

 もうどんな色にも返れない濁った水が、注いだ以上の水量となって、今にもシンクの中からあふれ出てきそうだ。

 息をのんで見つめていた佳奈は、大急ぎで栓を引き抜いた。


 よく晴れたゴミの日、佳奈は空になったペットボトルと、残っていた『魔法ラベル』を捨てた。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村

 

 

「いろは歌」いろいろ

 

アルファベット26文字をすべて使って、意味のある短文にしたものをパングラム(pangram)と呼ぶそうですが、「いろは歌」は、美しい語句と深い意味とを兼ね備えた、ひらがな版パングラムの最高峰といえます。

 

f:id:toikimi:20181016145639j:plain

  色はにほへど 散りぬるを
  我が世たれぞ 常ならむ
  有為の奥山 今日越えて
  浅き夢見じ 酔ひもせず

 

作者は不明。

これほどの歌を作ることができる天才といえば━━、ということで、弘法大師空海(774~835)を作者とする説もありましたが、現在では否定的な意見が主流となっています。

 

確認されている文献上の初出は平安時代後期1079年の仏教経典「金光明最勝王経音義」です。「いろは歌」は七五調ですが、7字区切りで書かれています。

それが慣例となったのか、明治時代の教科書も7字区切りで書かれており、この区切り方で最後の文字を拾うと、暗号のように、ある言葉が浮かびあがってくるのです。

  いろはにほへ
  ちりぬるをわ
  よたれそつね
  らむうゐのお
  やまけふこえ
  あさきゆめみ
  ゑひもせ

「咎(とが)無くて死す」

無実の罪を着せられたまま亡くなった誰かの、遺恨が込められているのではないかという説が生まれ、平安時代の公卿・源高明や、歌聖と称えられた柿本人麻呂が、「いろは歌」の作者として挙げられました。

柿本人麻呂飛鳥時代歌人なので、日本語史の専門家からは妄説として一笑に付されたそうですが……。

 

そこで私もひとつ「妄説」を考えてみました。

 

日本には「御霊(ごりょう)信仰」というものがあります。無実の罪などで非業の死を遂げた人の、強い怨みを慰め鎮めることで、あるいは、神として祀ることによって、祟りから守護への転換を願う信仰です。

政敵の中傷により大宰府へ左遷されて亡くなった後、祟りを恐れた人々が「天神」として祀り、学問の神様となった平安時代の貴族・菅原道真公は、御霊信仰のもっとも有名な例とされています。

御霊信仰には、古代日本人の、畏怖の心に裏打ちされた、おおらかな合理性のようなものを感じます。すさまじい怨みのパワーの「怨」だけを浄化して、残った純粋なパワーを建設的に活用しようとする発想がすごい。

 

折り込まれた暗号は、「あなたに咎は無かった、無実だった」と明言し、祟り神を鎮め、守護神として昇華させているようにも見えます。

 「いろは歌」には、仏教の教えのひとつ「諸行無常」による無常観と日本的な美意識が詠まれ、さらには御霊信仰までも加わって、強い霊的パワー・アイテムとなっているのではないでしょうか。

 

その「いろは歌」が、平安時代後期から大正時代まで800年以上も、仮名を手習いするための手本として広く用いられたことで、子供を守護し、その心性に少なからぬ影響を与え続けてきたとしても不思議ではありません。

日本人の言葉遊びに傾ける情熱は、「いろは歌」によって育まれたのかもしれません。

 

推理作家の泡坂妻夫(あわさかつまお)さんは、ペンネームの由来を質問されて、

「近所に『泡坂』という坂があり、愛妻家だから『妻夫』にした」

と、答えたそうですが、実のところは本名の厚川昌男(あつかわまさお)のアナグラムでした。

著作『亜愛一郎の狼狽』に収められている『掘出された童話』という短編を読み、「いろは歌」以外にいくつも、ひらがな版パングラムが存在していることを知りました。

  

 

いろは歌」より古い「あめつち」

  あめ つち ほし そら やま かは
  みね たに くも きり むろ こけ
  ひと いぬ うへ すゑ ゆわ さる
  おふせよ えのえを なれゐて

 

明治時代に万朝報(よろずちょうほう)という新聞が、「ん」を入れた48文字という条件で懸賞募集し、一等になった「とりな歌」

  とりなくこゑす ゆめさませ
  みよあけわたる ひんかしを
  そらいろはえて おきつへに
  ほふねむれゐぬ もやのうち

  鳥啼く声す 夢覚ませ
  見よ明け渡る 東を
  空色映えて 沖つ辺に
  帆船群れゐぬ 靄の中

どこか明治の気風を感じさせるこの歌の、「東(ひんがし)」というところが、私は好きです。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村

 

 

さかな顔の姫君(創作掌編)

 

※ 先日、『雷理さん』の記事を拝読し、ブクマコメントのやりとりから生まれた掌編です。
www.rairi.xyz

 

 

 静かな水底で、ヒメマスとキングサーモン(和名:マスノスケ)が、朝のあいさつを交わしていました。

「おはよう、ぼくの姫君。いい夢を見たかい?」

「おはよう、マスノスケさん。とても不思議な夢を見ていたの」

 といって、ヒメマスは夢語りをはじめました。

 

   △ ▲ △ ▲ △

 

 真澄(ますみ)姫は、誠実で思いやりのある人柄だったので、身近に仕える者たちからも深く愛されていました。

 しかし、どれほど献身的な衛士でも、すきま風のように入りこんでくる、心ない陰口をくいとめことはできません。

「亡き母上の美貌を受け継がなかったとは、残念なことです」

「気の毒な姫……、父王そっくりの『さかな顔』ではないか」

 含み笑い、目くばせ、ジョークに潜んだ毒──、素知らぬ顔で聞き流してはいても、姫君の心は、つきささる棘の痛みを感じていたのです。

(今度生まれてくるときは、魚になりたい……)

 そんなふうに願うこともありました。

 

 父王は、大切な真澄姫にふさわしい結婚相手をさがしていました。

 近隣の諸国や名家からの申し込みは少なからずありましたが、姫の幸せを考えると、どの候補者も気に入りません。

 そんな折、かねてより親交のあったサモン国王の即位式に、主賓のひとりとして招待されたのです。真澄姫を伴って列席し、思慮深く文武両道に秀でた若き王を、心から讃えました。

 

 即位式の後は、盛大な舞踏会が催されました。

 新王は、真澄姫をパートナーに選んで踊りつづけ、そして、ラストダンスが終わると同時に求婚したのです。

「多くの人たちに囲まれていながら、あなたはどこかさびしそうに見えた。それで私は、ダンスを申し込んだのです。しかし、踊っているあいだに気づきました。本当にさびしかったのは、私の方だったのです。どうか、私の妻になってください」

 

 ふたりは祝福されて結婚し、ずっと幸せに暮らしました。

「生まれ変わってもまた、あなたと結婚したい」と、王は王妃に言いました。

 

   △ ▲ △ ▲ △

 

「そうだったのか、やっぱり、ぼくたちの出逢いは運命なんだね」

 マスノスケはやさしく、ヒメマスを見つめます。

 あのとき、大雨で湖があふれ、海に運ばれてしまったヒメマスは嘆きましたが、マスノスケと巡り会ったことで、新しい世界がはじまったのです。

 マスノスケに寄りそって泳ぐヒメマスの体は、いつしか婚姻色と呼ばれる美しい紅色に染まっていました。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村

 

 

田房永子さん『呪詛抜きダイエット』のゲシュタルト療法

 

ゲシュタルト療法のプレトレーニング期間中は、ずっと単発のワークショップに参加していたので、「ゲシュタルトのワークショップは初めて」という方と、ご一緒する機会が何度かありました。

そのなかのひとりから、田房永子さんのコミックエッセイを読んで、ゲシュタルト療法に興味を持ったと伺い、いつか読んでみようと思いながら、そのままにしていました。

 

2年半の時を経て──、

先日、読者登録をさせていただいている Mmcさんの、

「これまで読もうと思って読んでいなかった田房永子さんの毒母まんがを四冊、一気読みした……」

という記事を拝読し、

mmc.hateblo.jp

 触発されて、私もようやく読むことができました。

 

呪詛抜きダイエット

呪詛抜きダイエット

内容(「BOOK」データベースより)

私が太っているのは呪いのせい!?
鏡を見られない人、写真撮られるのが嫌いな人、必読!
運動や食事制限の前に、するべきことがあった!
母親や親戚、友達や恋人にいつのまにか植えられていた「私は太っていなければならない」という呪い。抜いてみたら、バラバラだった心と体がひとつになった―!

 

まるで、体が何かにのっとられた感じで、食べずにはいられないエイコ。

ある出来事にショックを受け、10ヶ月ものあいだ苦しんだ末、

──さすがにこれは、病院でみてもらってよいレベルなのでは…?

自ら判断して、精神科クリニックを訪れます。

処方された「不安をおさえる薬」を飲み、いくつかの症状はなんとなくおさまったけれど、「過食症」は治らず、

──自分がどうしてこんなに食べてしまうのか、理由をつきとめないと治らないんじゃないだろうか?

と考え、様々なセラピーや治療、ボディワークをリサーチして体験します。

 

そのうちのひとつが、ゲシュタルト療法でした。

プロの漫画家さんは本当にすごい。

ワークの流れと間合い、参加している人たちの表情や姿勢、心象風景、場の雰囲気など、とてもわかりやすく的確に描かれているのです。

 

ワークの最中にエイコは、すごくイヤな気持ちになり、無意識のうちに手をにぎりしめるのですが、ファシリテーター(促進者役のセラピスト)はすぐに気づいて、

 「今、右手に力が入っていますね。右手がしゃべるとしたら何て言ってますか」

と言葉をかけます。

すると、エイコの右手は「殺してやる」と言いました。

 「殺してやる!」

 「そのくらい私は?」

 「怒ってます!」

 「怒りは体のどこにありますか」

 「全身」

 「それを感じてくださいね」

 まさに、ゲシュタルト療法の真髄に触れるような、やり取りだと思います。

 

寝る前に数ページだけ読むつもりでしたが、一気に読み切ってしまいました。

その後、なんとなく寝付けないまま横になっていたのですが、奇妙なことが起こりました。

特に感情は動いていないのに、涙が流れるのです。涙はしばらくの間、はらはらと静かに流れ続けました。

とても不思議な感覚でした。

 

そして翌朝、キッチンに立っていて突然、

「あっ、しまった!」と思ったのです。

 

──その涙がしゃべるとしたら何て言ってますか?

と、問いかけるべきでした。

後の祭りですが、なんとも悔やまれます。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村