かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

コウモリ本2冊

 

『アニクロ』というフォーカシングのワークを通じて、コウモリに興味を持ち、本を2冊読みました。

 

toikimi.hateblo.jp

 

1冊目は『コウモリの本』シャーロット・ミルナー作・絵(合同出版・2021/3)

 

優しいタッチで描かれた絵本です。

 

  なぞにつつまれた

  コウモリの世界をのぞいてみよう

 毎日夕ぐれになると、コウモリが空をとぶ。

 うす暗い中を急こうかしたり、ひょいと急カーブしたりしながら、

 いそがしくとびまわってても、だれにも気づかれないことが多い。

 でも、わたしたちの知らないあいだに、

 コウモリは、だいじな役わりをはたして、

 ゆたかな自然をまもってくれてるんだ。

  コウモリのことを、くわしく知ろう

  なぜコウモリはだいじなのかな?

 

という言葉で始まるこの本では、コウモリの基礎知識を学べます。

コウモリは━━、

  • 北極と南極を除き、町中や森、砂漠など、世界中にすんでいる。
  • 種数は約1300種。
  • 哺乳類で唯一、空を飛べる。
  • 同サイズの動物と比べて、とても長生き。
  • 夜行性で、寒い季節のあいだは冬眠する。
  • 鳥のように地面から飛び立つのではなく、高いところに逆さでぶらさがり、落下しながら飛び始める。
  • コウモリの足の爪はフックのようになっており、ずっとぶらさがっていても疲れない。
  • 多くのコウモリは、昆虫や果物、花の蜜を食べる。
  • エコーロケーション(音や超音波を発し、その反響からものの位置や大きさなどを知ること)を使って、暗闇で食べ物を見つける。
  • 果物や花の蜜を食べるコウモリは、受粉を手伝い、種を運ぶことで植物の成長を助ける。
  • 昆虫を食べるコウモリは、作物を害虫から守り、農薬の量を減らしている。
  • けれど残念なことに、多くの貴重なコウモリのなかまが急激に数を減らし、絶滅するおそれもある。原因として農薬や森林伐採などが考えられるが、その他にも「気味が悪い」「病気を広める」といったネガティブなイメージのため、保護活動が盛んになりにくいという問題もある。

 

……コウモリを正しく知り、わたしたちにできることをしてまもってあげなくちゃ。そうすれば、コウモリが植物の受粉をたすけ、たねをはこんでくれるから、わたしたちがくらす地球の生態系は、うまくバランスをたもてるよね。

コウモリは、たくさんの動物や植物に力をかしてる。でもこれからは、わたしたちがコウモリをたすけてあげなきゃね。

  ごかいをといて、コウモリのほんとのすがたを知ってもらおう。

 

エピローグには、作者からのメッセージがこめられていました。

 

 

もう1冊は、『ボクが逆さに生きる理由 誤解だらけのこうもり』

中島宏章 著 福井大・高田礼人 監修(ナツメ社・2017/10)

 

コウモリへの愛と好奇心にあふれた本です。それは「はじめに」で語られる言葉からもひしひしと感じます。

 

 このコウモリという動物は本当に不思議だ。これほどまでに誤解されている動物はほかにいないのではないだろうか? 真実のコウモリは、めちゃくちゃ魅力的で、とんでもなく興味深い。コウモリはおよそ人間には考えられないような能力をたくさんもっている。《中略》

本書を読み終えたとき、読者のコウモリに対するこれまでのネガティブなイメージがまるっきり「逆さま」になっていれば、望外の喜びである。

 

私は以前から、コウモリがずっと逆さにぶらさがっていて、頭に血がのぼってしまわないのか、疑問に思っていました。

著者の中島宏章さんも同様だったらしく、コウモリの気持ちを少しでも理解するため、木登りの達人にお願いをして、ロープで逆さまにぶら下げてもらった経験があるとのこと。逆さまになってみると、思っていた以上に怖くて、気分も悪くなり、すぐに頭に血がのぼってきたため「早くおろしてくれ!」となってしまったそうです。

 

コウモリは長時間ずっと逆さまでも、なぜ頭に血がのぼらないのか?

その謎はまだ完全には解明されていないものの、一般的にいわれているのは、コウモリは体が小さいので頭と足先の高低差が少なく、体重も非常に軽くて血液の量が少ないため、重力による血流への影響がないという理由です。

 

この本のなかで、いちばん感銘を受けたのは、チスイコウモリの話でした。

チスイコウモリ、いわゆる「吸血コウモリ」は世界に3種おり、中南米およびメキシコ、カリブ海地域に生息しています。

ウシやウマ、ブタ、ヤギなどの家畜、そして、ごくまれに寝ている人間から吸血するのがナミチスイコウモリ。(あとの2種、シロチスイコウモリ・ケアシチスイコウモリはおもに鳥類から吸血する)

ナミチスイコウモリは4足歩行で跳ねながら、眠っている獲物に近づき、皮膚が薄く血管を狙いやすそうな場所を探します。鼻の周辺に、ピット器官と呼ばれる赤外線センサーに似た感覚器官がそなわっており、サーモグラフィーのように、獲物の体温が高い(すなわち血管がある)個所を正確に見つけ出すことができるのです。

血管の位置を定めると、その部位を丁寧に舐めてから、鋭利な前歯で皮膚に小さな傷をつけ、傷口から流れ出てきた血液を少しずつ時間をかけて舐めとります。ナミチスイコウモリの唾液には麻酔効果のある酵素が含まれているため、獲物は痛みを感じません。さらに、その酵素には血液をさらさらにし、固まりにくくする作用があるので、ゆっくりと食事できるのです。

ちなみに、チスイコウモリの唾液に含まれる酵素をもとに作り出された「ドラキュリン」という名の血栓溶解剤が、脳梗塞の治療に活かされている。

という、楽しい豆知識も。

チスイコウモリは体重が15~50グラムなので、1回の食事量はだいたい血液スプーン1杯くらい。なので、血を抜かれた家畜が失血死してしまうことはありません。

 

さて、感銘を受けたのはここからです。

 

チスイコウモリは群れで生活する社会性の高い動物ですが、その社会性において人間以上かもしれないと思わせる「やさしい」行動をとるそうです。

アメリカの生物学者、ジェラルド・S・ウィルキンソン博士の研究によれば、チスイコウモリは消化の早い血液を食べているため、60時間の絶食で生命の危機に瀕するが、その際、満腹の個体が血液を吐き出し、口移しで空腹の個体に分け与えるというのです。

分け与える相手が血縁関係にない場合もあり、これは、自分の遺伝子が入っていない他の個体を助けるという、哺乳類でも極めて珍しい行動なのです。

 

面白いのは、このような血液を分かち合う関係が「もちつ、もたれつ」だという点です。

チスイコウモリの記憶力は相当に優れているようで、過去に血を分け与えてくれた「やさしい」個体が空腹で困っている時には恩返しをする一方、分けてくれなかった自己中心的な個体のことは拒否するそうです。

また、いつもは分けてくれる個体が、たまたま空腹で分け与えることができなくても、信用関係がこわれることは少なく、それどころか、後ほど余裕のある時に、普段より余分に血液を与えるなど「おわびの品」的な行動で、さらにきずなを深めたりするといいます。

 

 チスイコウモリがなぜ血を分け与えるのか、それは将来的に自分の生存に有利になるからだと説明される。チスイコウモリは普段の生活においても、もし自分が困ったときに誰に頼ればよいのかを常に意識しているのだという。そして、その「大切な相手」との関係性が崩れそうになると、積極的に仲直りをするのだ。つまりチスイコウモリの「もちつ、もたれつ」は1回限りの気まぐれな関係などではなく、まるで人間関係のような長期にわたる社会的相互作用なのだ(Carter&Wilkinson,2015)。ここまでくると、僕たち人間の「やさしさ」や「友情」の起源というものが、果たしてどんなものであるのか考えさせられるほどである。

 

チスイコウモリの行動を知って、「利他」と「利己」というのは一見かけ離れているようで、実は深いところでいろいろつながっているのかもしれないと思いました。

予想をはるかに超えておもしろい、コウモリ本でした。