このあいだ、フォーカシングのオンラインクラスで「クリアリング・ア・スペース」というものを教わりました。
フォーカシングの創始者ジェンドリンが、著作の中で「フォーカシングの手引き」として示している6つのステップの最初の段階です。
- 空間を作る
自分自身にたち戻って静かにし、しばらく楽にしてください……結構です……そこで、自分の内部、内面の方に注意を向けてください。おなかと胸のあたりです。「自分の生活はどうなっているのだろう? 今自分にとって大きなことは何だろう?」と自分に尋ねたらそこに何がで出てくるか見てください。からだで感じてみてください。その感じのなかからゆっくり答えを出させてください。何か気になることが出てきたら、そのなかに入り込まないようにしてください。少し待って、感じてください。いくつかのことがあるのが普通です。
ちなみに、残りの5ステップは以下の通りです。
- フェルトセンス…焦点をあててみたいことをひとつ取り上げ、その問題全体を思い起こすときに感じる、漠然としたからだの感じ(フェルトセンス)を味わう。
- 取っ手(ハンドル)をつかむ…フェルトセンスに最もよくあてはまる言葉やイメージを探る。
- 共鳴させる…出てきた言葉やイメージとフェルトセンスのあいだを行ったり来たりして、一致しているかどうか確かめる。
- 尋ねる…フェルトセンスが何を伝えようとしているのか、からだに問いかけ、気持ちが動いて答えを与えてくれるのを待つ。
- 受け取る…どんなものが浮かんできても歓迎し、批判せずに受け取る。
第一段階の「空間を作る:クリアリング・ア・スペース(Clearing a Space)」は、単独でも使えるそうです。
やり方はシンプルで、まずはゆったりと自分の内側を感じながら、浮かんできた気がかりなことを短い言葉で言ってみます(たとえば「仕事のこと」とか「あの人のこと」など)。
ジェンドリン先生の「そのなかに入り込まないように」という教え通り、あまりこまごまとディテールを掘り起こさず、その気がかり全体の感じを感じてみて、それをちょっと「脇に置く」としたらどこがいいかを問いかけます。
いい感じに置けたら、次に浮かんできた気がかりを同じように片づけていき、今の自分が抱えているものはこれだけと思えるまで続けます。
最後に、整理整頓された心の空間の、すっきりとしたクリアな感じをしばらく味わって終了です。
クリアリング・ア・スペースを行うと、抱えている問題とのあいだに適切な距離がとれるため、気持ちに余裕をつくることができます。一人でも行えますし、誰か聴いてくれる相手(リスナー)がいると取り掛かりやすいです。
クラスでは受講生がそれぞれペアになって実習しました。
最初に出てきた私の気がかりは「仕事のこと」でした。仕事そのもののストレスや、苦手な人との人間関係などをひとまとめに感じてみます。
これを置いておくのは、職場にある自分の机の中がふさわしいような気がしました。
次に出てきたのは「コロナの心配」。たまたま身近で複数の感染者が出て、しかも症状がわりと重めだったので、5類感染症への移行後おさまりつつあった不安感が、ぶり返してきたところだったのです。
こちらは、体温計などを入れている小さな引き出しにしまっておくことにしました。
次に浮かんだ、クラスで今後取り組む課題についての気がかりは、とりあえず「2週間後の未来」に置きます。
──という感じで続けていき、やがて何もなくなりました。
そこには、すっきりと片づいた空間があるはず…なのですが、なんとなく薄暗い感じに満ちています。
それでも、「今の気がかり」はもう出てこないので、クリアリング・ア・スペースを終了しました。
実習後にクラスの先生が、私が感じた薄暗さは「バックグラウンド・フィーリング」というもので、ジェンドリンの本にも「背景としての気持」という訳語で記述されていることを教えてくださいました。
普通に出てくる5つか6つのことのあとに、もうひとつ何があります。そこに、それぞれの人にとって、いつでもそこにある「背景としての気持」があるのが普通です(例えば「いつも灰色」、「いつももの悲しい」、「いつもこわがっている」、「いつも懸命に努力している」など。)いつもそこにあり、今もあり、あなたといい感じとの間に出てくるそのものの特質はなんでしょうか。それもまた脇におきましょう
背景としての気持ちすら脇に置けるとは、思ってもみないことでしたが、さらにジェンドリンは、
「あなたは脇においたもののどれでもないのです。あなたは何かの内容物ではありません!」と、強く語りかけます。
クリアリング・ア・スペースは、やり方が特に難しいわけではないのですが、全部取り出して片づけると聞くと、とても面倒な気がして、実習という機会でもなければ、やってみたいと思わなかったかもしれません。
けれど、実際に「置き場所」を決めることができると、それはその場限りではなく、次からも使えることがわかりました。
部屋の片づけでも、物の「定位置」を決めるのが大切で、一度決めてしまえば、後はそこに戻すだけだから楽だといいます。
心の片づけにも通じるところがあって、今では、漠然と浮かんでくる「仕事の気がかり」は、とりあえず職場の机の引き出しにしまっておくことをイメージできるようになりました。その引き出しは、座るとお腹のあたりにある、浅くて広い引き出しで、鍵はついていません。つまり、それほど深刻でも大事でもなかったりするのです。
そして、バックグラウンド・フィーリングについては、非常に興味を引かれたので、後日「フォーカシングを楽しむ会」で、じっくりとフォーカシングしてみました。
とても印象深いフォーカシングになったので、あらためて記事として書きたいです。