かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

ドラマ『パンとスープとネコ日和』になごみました。

 

『パンとスープとネコ日和』は群ようこさんの小説です。

2013年にWOWWOWの連続ドラマ(全4回)として放送されましたが、私は先日、Huluで視聴したところです。

 

【ネタバレ注意】

 

WOWWOWウェブサイトのストーリー紹介

ずっと母との2人暮らしだったアキコ(小林聡美)は、母の突然の死、そして勤めていた出版社の理不尽な人事異動で、母の営んでいた食堂を自分でやっていく決心をします。
自分のセンスで改装したアキコの新しいお店は、パンとスープだけというシンプルなメニュー、お手伝いのしまちゃん(伽奈)との2人だけの小さな店。
ある日現われた1匹のネコと暮らし始めるアキコ、そして、アキコの周りには、楽しく世話をしてくれる、商店街の大人たち…。

 

【ネタバレ注意】

 

 「しっかりしている」「さっぱりしている」などと、周囲の人たちに評されているアキコですが、仕事上で信頼関係を築いてきた料理学校の理事長、山口先生(岸 惠子)からは、「自分が何を好きか分かっている人」と言われます。

『自分が何を好きかわかっている人はね、いろんな力を呼び込むことができるのよ』

 

アキコの人柄を反映するように、ドラマも慌てず騒がず、落ち着いて進行していきます。

住居の1階で「お食事処 カヨ」を営んでいた母親が、店で倒れて救急搬送され、そのまま亡くなってしまうというところから、動き出すストーリー。

大盛りメニューが学生に好評で、常連客も多かった母の店をたたみ、編集の仕事を続けるアキコに、経理部への人事異動が通告されます。昇進ではありますが、

『本を作る現場にいられないなら、私にはこの会社にいる意味がありません』

と言い切るアキコ。

会社を辞め、母親の店をすっかり改装して、「sandwich ä」という、日替わりスープと2種類のサンドイッチ(パンを3種類から選べる)の店を作り始めます。

もともと料理が好きで、専門家の山口先生から「センスも才能もある」と褒められているアキコでした。

『シンプルなメニューで、自分にできることから始めます。自分のやりたいお店をやってみる、それが今の私の決心です』

アキコは山口先生への手紙で、胸の内を報告します。

  

そして、店がオープンしてまもなく、亡き母の旧友が現れ、シングルマザーだった母親の相手(つまり、アキコにとっては父親)の所在を知ることになります。

並べてみると、いくらでも「ドラマチックに」盛り上げることのできる内容なのですが、この作品では、起こる出来事をただそのままに、淡々と描いていくのです。

ことさらに表面を波立てたりしない分、ゆっくりと流れていく時間と日常が感じられ、「人生の仕切り直し」や「再生」というテーマも自然に伝わってきます。

 

静かにエピソードが紡がれていくなかで、アキコの心の声が強く響いたのは、「たろ」という同居ネコが出て行ってしまった時でした。

『私、お店と自分のことだけを考えていたのでしょうか。飼っていたネコが、いなくなりました』

 

ある夜、仕事から帰ってきたアキコを待ち受けるように、玄関の前で座っていたネコ。そのまま、なんとなく一緒に暮らし始めた「たろ」は、家族を失って独りになったアキコのそばに、そっと寄り添う存在でした。

いなくなった「たろ」はラスト近く、また店の前に姿を現します。アキコが再会できるかどうかわからないまま、物語は幕を閉じます。

 

思いがけない人生の転換期を、さまざまな人たちと触れ合って過ごしてきたアキコは、山口先生への手紙に思いを綴りました。

『私は気づきました。今までの自分は、自分自身が不自由にしていたのだということに。先生、私、真面目すぎました。これからは不良になります。自分が自由になれて初めて、人との時間は始まるのだということに気づきました』

 

 

アキコを演じた小林聡美さんは、トークイベントのインタビューで、

「こういうドラマにイラっとしない方に見てほしい(笑)。『何も起こらないじゃないか!』と怒られても困るので、ゆとりのある方に見てほしい」

と、ユーモアを交えて答えていらっしゃいますが、私はむしろ、このドラマを観ているあいだ、忘れていたゆとりを取り戻せたように感じました。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村