かきがら掌編帖

数分で読み切れる和風ファンタジー*と、読書・心理・生活雑記のブログです。

俳句はことばの娯楽『寝る前に読む 一句、二句。』

 

遠くない将来、定年退職して働かなくてもよくなったら、俳句を趣味としたいです。

あまり縁のなかった世界なので、少しずつ情報を集め始めました。

インターネット俳句会(ネット句会)というのもあり、扉はいろいろなところに存在しているようです。

そのうち、ちょうどいい入り口を見つけられるかもしれません。

 

寝る前に読む 一句、二句。 - クスリと笑える、17音の物語 -

寝る前に読む 一句、二句。 - クスリと笑える、17音の物語 -

 

 

 著者の夏井いつき先生は、テレビのバラエティー番組で「俳句の才能査定ランキングコーナー」を担当されている俳人です。

テレビ番組をよく見ていた頃、たまたま点けたらこのコーナーの最中で、面白さに引き込まれて見続けた、ということが何度かありました。 

俳句に不慣れな芸能人の作品を添削するのですが、詠みたかった心情や風景を本人から聞き取り、ことばを少し動かすだけで、その情景が浮かび上がってくるのです。パズルのピースがぴたりと合い、表現したかった世界に焦点があった、という感じでした。

 

いつき先生は「啓発本」と聞いて、

「他人様を啓発する本なんて、ジョーダンぢゃないよ」と困惑しながら、

「が、待てよ……」誰かと俳句を語り合い、その勝手気ままな俳句談義の中に、人生の喜び悲しみ、笑いや涙や共感が生まれ、読者のヒントになるのではないか、と思い立ちます。

談義のお相手は、俳句の事がわかっていて、お互いの人生に対して遠慮なく話せる人物、実妹のローゼン千津さん。

「上から目線の『啓発本』ではなく、ケーハクな『ケーハツ本』が書けそうな気がしてきた。ちょっとワクワクしてきた」

 という本です。

 

 書名の通り、寝る前に読んでいたのですが、おもしろくて、一句、二句が三句、四句に増えていき、すっかり寝不足になってしまいました。

 

酔ひ戻り夜の鶏頭にぶつつかる

  波多野爽波(はたの そうは) 1923年、東京生まれ
  高浜虚子に師事。俳誌『青』を創刊・主宰

 【季語】鶏頭(けいとう)/秋

 一杯機嫌で家に戻った。我が家がわからぬほど酔っているわけでもないのに、玄関に向かう途中、暗い庭先で思いがけず、何かにぶつかった。はっとして顔を上げて見ると、真っ赤な鶏頭が闇に揺れている。ほっとして、我ながらおかしくて、くすくす笑いながら玄関を静かに開ける。

 

この句について、いつき先生が、

「あ、ぶつかった、という身体感覚が鮮やか、夜の鶏頭の色合いも想像できる。酒飲んでの武勇伝はある?」

と尋ねれば、

ローゼンさん「私は天神橋筋商店街を半裸で踊りながら駆け抜けた事がある」

いつき先生「アナタが脱ぐなら、アタシャ泳いだ(笑)」

というふうに、話は楽しく展開していきます。

 

俳人をやっていると、周囲を観察するクセが付く。それは単なるあら探しではなく、愛すべき瞬間や表情を見つけたいための、事細かい観察となります。

愛を持って観察し、句に詠むうちに、近所の嫌味なおばちゃんも、嫌な仕事も、うざい上司も、句材だと思うと愛しく感じられるようになるそうです。

愛を持って観察したら、愛すべき個性が見えてくる。細部を詠めば、俳句にも個性が出る。

個性がない、感性がない、だから月並みな句しか作れないと言っている人たちって、結局観察できてないだけ。眼球には映っているけど、愛を持って存在を認識してない。

 

また別のところでは、

「怒りや憤りを俳句で吐き出すと、血が濁らないですむ」

「悲しみや痛みを俳句で吐き出すと、その俳句がやがて己の心を癒してくれる」

とあります。

 

それは少し無理空蝉に入るのは

  正木ゆう子(まさき ゆうこ)1952年、熊本生まれ
  能村登四郎に師事。角川俳句賞選考委員

 【季語】空蝉(うつせみ)/夏

 

本のラストを飾る俳句です。

「句会に出たら、合評がさぞ盛り上がるだろう」とローゼンさん。

談義の中の、いつき先生の締めのことばが、素敵でした。

人それぞれの「無理」がある。〈中略〉苦しくてもどこかに楽しめる部分があるかどうか、自分で見極めることが大切やね。もし苦しさが勝っていたら、さっさと逃げる。

〈中略〉

嫌な事には近寄るな。苦しくなれば逃げろ。無理を楽しめるほど好きな事が見つかったアナタは幸運だ!