数十年来の河合隼雄ファンですが、ついにご尊顔を拝することは叶いませんでした。
機会はあったのです。
文化庁長官在任時に講演のお知らせを目にして、場所も近く、テーマも児童文学ということで、ぜひ行きたいと思いました。
募集要項には「申し込みはファクシミリで」とあったのですが、fax機を持っていなかったので、ハガキやメールなど、別の方法でも可能かどうか電話で問い合わせてみました。けれど答えは、ファクシミリのみ。
で、あきらめたのです。あきらめてしまったのです。
数ヶ月後、隼雄さんは病にたおれ、帰らぬ人となりました。
あの時、すぐにでもFax機を買って、申し込まなかったことを悔やんでいます。
歳月は流れ、今から2年あまり前のこと。
たまたま見ていたブログで紹介された本に興味を引かれました。
百武正嗣さんの「気づきのセラピー」です。
当時、私は「気づき」という言葉自体に、なんとなく違和感を持っていたので、書店に並んでいても手に取らなかっただろうと思います。
読んでみたら、とてもおもしろい。
同じ著者の書籍を次々に(といっても入手できたのは全3冊)読んで、ますます関心が強まりました。
ゲシュタルト療法とは、「今、ここ」での気づきを重視する、実践的な心理療法です。ワークショップも開催されていて、しかも、インターネットで申し込みができるのです。
それまで、ワークショップなるものに参加したことはありませんでした。
そのうえ、10時から17時までのグループワーク。
チャレンジ精神というものがすっかり錆びついていた私にとって、①初対面の人たちと、②長時間にわたり、③未知の体験実習を受けるというのは、ものすごく高いハードルでした。
それでも踏み切ったのは、もろもろのことが完全に行き詰まっていた時期だったので、打開のきっかけになればという強い期待があったからです。
隼雄さんの「ライブ」に接する機会を逃した後悔も、原動力になりました。
当日、緊張と不安でふらふらになりながら、会場へ向かいました。
グループワークは、ファシリテーターとクライアントが1対1で個人ワークを行い、まわりで他の参加者が見ているというスタイルです。
個人ワークのあと、クライアントがOKすれば、他の参加者はフィードバックをします。ただし、分析、批評、ワークの内容に関する質問はしないことになっています。
ファシリテーターに対する技法上の質問は、フィードバックが済み、ワークが完了してから受け付けられます。
その日、私は個人ワークをする気力がなかったので、見学に徹しましたが、時が経つのを忘れるほど没頭して過ごせました。
本で読んだ世界を実体験し、ゲシュタルト療法をもっと知りたくなりました。
その勢いのまま、60時間のプレトレーニングを経て、1年間のベーシックトレーニングコースを受講するという、当初からは思いもよらない展開となったのです。
いつだったか百武さんに、冒頭に書いた河合隼雄さんの話をしたら(聞きようによっては、なかなか「縁起でもない」内容だったにもかかわらず)
「今度は生きてるうちに間に合ってよかったね」と、笑っていました。
ほんとにそうですね。