かきがら掌編帖

10年あまり通っていた童話教室で「宿題」として書いたものに加筆修正して載せています。

夾竹桃の庭

 さよ伯母さんは、6月の千恵の誕生日に、いつもプレゼントを贈ってくれる。

 お正月やお彼岸に会ったとき、2人で話したことをよく覚えていて、ちゃんと千恵のよろこぶものを選んでくれるのだ。

 今年届いたのは、アクセサリービーズのキットだった。宝石箱のようなパッケージのなかできらめくビーズやパーツを見て、

(これで、伯母さんにネックレスをつくって、お誕生日のプレゼントにしよう)

 と、思いついた。

 千恵からさよ伯母さんへ、初めて贈るバースディプレゼント。

 

 さよ伯母さんの誕生日は8月31日、夏休みさいごの日だ。

 リボンでかざった贈りものを抱えた千恵は、ひとりでバスを乗り継ぎ、伯母さんの家を訪ねた。

 こじんまりとした古めかしい家で、木でかこまれた庭はそとから見るより広い。

「わぁ……」

 千恵はおどろいて塀の上を見あげた。

 お正月に来たときには濃い緑色をしていた木々が、あざやかな薄紅色の花をつけているのだ。夏の強い日ざしのなか、塀からあふれ出しそうに咲いているのは、すべて夾竹桃だった。

 

 びっくりさせようと思って、さよ伯母さんには電話もかけないで来た。もし留守だったら、プレゼントは郵便受けのなかへ入れてくるつもりだったけれど、呼び鈴に応える声が聞こえてきてほっとした。同時に、うれしさで胸がわくわくしてくる。

 玄関の扉が開く瞬間をとらえて、

「さよ伯母さん、お誕生日おめでとう!」

 と言うと、伯母さんの目がまんまるくなった。

「まあ、千恵ちゃん……」

 サプライズ大成功だ。

 

 家にはいって帽子をぬぎ、汗びっしょりの髪と顔をふいた。

 居間は夏用に模様替えしてあった。こたつは座卓に変わり、縁側に面した障子戸も開けはなされて涼しそうだ。

 さっそくプレゼントを手渡して、いっしょうけんめいデザインを考えたことや、なんどもやり直しながら作りあげたことを話したあと、伯母さんが、うやうやしくネックレスを身につけるのを見まもった。

「やっぱり似合う、よかったー。今日着ている服にぴったり」

「ありがとう。ほんとにすてき」

 そのときになって初めて、伯母さんがよそゆきの服で装っていることに気がついた。

「さよ伯母さん、お出かけするところだった?」

 「そう、これから誕生日のパーティに行くのよ。千恵ちゃんもいっしょに来ない?」

「えっ、いいの? でも、今から出かけたら、帰りは夕方すぎちゃうよね……」

 お母さんの怒った顔が、ちらっと頭にうかぶ

 すると、さよ伯母さんは謎めいた笑顔になって答えた。

「だいじょうぶ、ちょっと不思議なパーティなの。場所はすぐそこだし、時間もほんのわずかしか、かからないわ」

 

「それなら、行く!」

 元気よく立ちあがって、玄関へ向かおうとすると、

「靴だけとってきて。出かけるのは縁側からよ」

 伯母さんに声をかけられた。

(縁側って?)

 首をかしげたまま靴を持ってきて、縁側から庭におりる。庭の木陰には、ずいぶん大きな縁台が置いてあった。これも前に来たときは見かけなかったものだ。

「パーティが始まるまで、ここで寝転がってましょう」

 伯母さんは靴をはいたまま、縁台に横たわって、気もちよさそうに伸びをした。千恵も並んで横になる。見あげると、両がわから木々がせまって、夾竹桃のトンネルのなかにいるようだ。かいまみえる空は、目にしみるほど青い。風の通り道になっているらしく、空気がすずやかだった。

 数えてみると夾竹桃の木は7本あった。薄紅色の花を咲かせている6本に混じって、白い花の木が1本。

「白の夾竹桃もきれいだね」

「ほんとね。この夾竹桃は私が生まれたころに植えられたのよ。植え付けしたのは、名人庭師のお爺さん。子どものころは、毎日のように『けっしてこの木の花や枝をつかって、ままごと遊びをしてはいけません』と言われたわ。知ってる? 夾竹桃には毒があるのよ」

「知らなかった」

 伯母さんの横顔を見ると、なつかしそうにほほえんでいる。

「でも、私はこの夾竹桃が好きだったし、いっしょに遊びたかった。そうしたら、庭師のお爺さんが教えてくれたの。誕生日に願をかけて、木の精に望みをかなえてもらう方法。お爺さんも手伝ってくれたから、とびきりの魔法になったわ」

 

 夾竹桃の葉が白く光をはじきながらひるがえり、さらさらとゆれはじめた。風が強くなってきたようだ。さわやかな風が、千恵の頭から足のほうへとふきぬけていく。

(いかだに乗って、川をくだっていくみたい)

 千恵は目をほそめた。

 視界のはしで、あざやかな花の色が、流れるようにゆらいでいる。

(ちがう、逆だ。動いているのはこっちの縁台のほうだ。「魔法」ってこのこと?)

 おどろいたけれど、となりから伝わってくる伯母さんのぬくもりに勇気づけられ、そのまま空を見あげていた。

 やがて、流れはだんだんとゆるやかになり、静かに止まった。

 

 着いた場所は、夾竹桃の森だった。薄紅と白だけではなく、赤や黄色、オレンジ色の花が咲き、生き生きとしたいろどりにあふれている。

 起きあがってみると、湖が見えた。空の青と森の緑を映した水面がきらめいている。

 千恵は伯母さんと手をつないで、縁台から柔らかな地面におり立った。

――さよ

――誕生日おめでとう

 声のする方へふりむくと、森から歩みでてくる人影が見えた。人影は7つ、風にゆれる薄紅色の衣の6人と、まっ白な衣をまとったひとり。

「ありがとう。会いたかった」

 さよ伯母さんはうれしそうに、あいさつを交わした。

「今日は、千恵もいっしょなの」

 まぶしい光に向きあうような気もちで、千恵はひとりひとりの顔を見あげた。

――よく来たね、千恵

――残念ながらこの森では、誕生日のごちそうを出すことはできないが、かわりに、歌と舞でもてなすよ

――はるかな国から旅してきた我々の記憶をたどり、とっておきの物語を聞かせよう

 

 夾竹桃たちの言葉どおり、すばらしいパーティだった。

 透きとおった歌声と、はなやかな踊り、今まで聞いたことのないような物語に、千恵の心は引きこまれた。

 ずいぶん長い時間が過ぎているような気がして、はっとする。

「今、何時だろう?」

 となりに座っているさよ伯母さんに、小声でたずねた。

「心配しなくてもだいじょうぶよ。この森では、時間の流れも特別なの。ここで何時間過ごしたとしても、出てきたのとまったく同じ時刻に、うちの庭に帰り着けるわ」

「1日とか2日でも?」

 伯母さんはにっこりして請け合った。

――千恵 座っていることに飽きたなら、水遊びもできるよ

 夾竹桃のひとりが、湖のほとりに浮かんでいるボートを指さして教えてくれた。

 

「すごい、夏休みをもう1日、増やすことだってできるんだね」

 そうつぶやいたとたん、千恵のおなかが抗議するように鳴った。体の時計のほうは、止まっていてくれなかったようだ。

「あら、そろそろお開きの時間ね」

 笑いながら伯母さんが告げた。

 

 別れをおしみ、再会を約束して、夾竹桃たちは森へ帰っていった。

 千恵と伯母さんも、縁台の上に戻る。

「さよ伯母さん、すごく楽しかった」

「よかったわね。来年もまたパーティに来る?」

「うん!」

 空腹をなだめるように両手でおさえたまま、千恵は提案した。

「来年は、お弁当をたくさん持ってこようね」 

 

 

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