かきがら掌編帖

10年あまり通っていた童話教室で「宿題」として書いたものに加筆修正して載せています。

まるごとスイカの夏(創作掌編)

 電車を降りたとき、向かい側のホームに、カコとみーこの姿が見えた。

 急いで階段をかけおり、ちょうど改札のところで一緒になった。

 

「ぶーちゃんはバイトで遅くなるって」

 私の報告に、ふたりはそろってうなずいた。

「じゃ、先に行ってようか」

 手土産のケーキや飲みものを買いながら、商店街をのんびり歩いていく。福引のテントの前に行列ができていた。学校が夏休みなので、日に焼けた子どもたちが目立った。

 

 住宅地に入って間もなく、千砂のアパートに着いた。部屋は2階のつきあたりだ。

 さっき「カギ空けておいたからね(^^)v」と連絡があったので、

「千砂、こんにちはー」

「おじゃましまーす」

 口々に言いながら、一列になって中へ入った。

 

「あれっ?」

 先頭のカコが立ちどまったので、私は肩越しに部屋をのぞいた。

 見ると、千砂が大きなスイカをかかえて、床にすわりこんでいる。

 

「どうしたの、そのスイカ」

「さっき、福引で当てちゃったの」

「そうなんだ。こんなおっきいの、まるごともらったって困るよねぇ」

 みんなで、スイカをかこむように腰をおろした。

 

「うん、どうしたもんかと思ってながめているうちに、なんだか子どものころを思い出しちゃった。家族みんなで、スイカを食べていた夏のこと……」

 千砂は、スイカに両手をのせたまま、なつかしそうに言った。

「うちは田舎だったから、スイカは井戸水で冷やして、縁側で食べてたの。夕方になると涼しい風がふいて、虫の声が庭じゅう立ちのぼるように聞こえてきた。よく、お兄ちゃんたちと、スイカの種を飛ばしっこしたなぁ。お父さんが塩をかけすぎるから、お母さんは血圧を心配してたっけ」

 都会のマンション育ちの私には、なんだかうらやましい光景だ。

 

「それから、お祖母ちゃんは必ず、ザシキワラシさんの分だと言って、いちばん甘そうなひと切れをお供えしていたわ」

「ザシキワラシって、あの昔話とかに出てくる?」

「うん、家をまもってくれる子どもの神さまなんだって。だから、そのひと切れは、あとでいちばん小さかった私がもらえたんだよね」

「いいね、そういうの。やさしいお祖母さんだね」

 みーこもカコも、遠くを見つめるような目になっている。

「ほんとうに夏らしい夏だったな。でも、もう二度ともどれないんだよね。お祖母ちゃんは、私が大学に入った年に亡くなったし、去年、お兄ちゃんが結婚したとき、家を建て替えたから、縁側もなくなっちゃったし」

 しんみりと言って、千砂はうつむいた。いつもの元気がないようだ。しばらく前に失恋したと聞いたけれど、まだ立ち直っていないのかもしれない。

 

「だいじょうぶ。これから来る夏も、きっといい夏よ!」

 ふいに、からりとした声が響いた。

 

 ふりかえると、ぶーちゃんがニコニコしながら立っていた。

「あ、びっくりした。いつのまに来たの?」

「さっきからよ。みんなちっとも気がつかないんだもの」

「わー、ごめんね」

 沈んでいた空気が入れ替わったように、千砂の顔も明るくなった。

 

「よーし、全員そろったところで、このスイカの件、かたづけちゃおうよ」

 行動力のあるカコが、立ち上がって動きはじめた。

 テーブルの上に新聞紙を広げ、まな板を置くと、まず、今日食べる分を切りわけた。大きなお皿に盛って、冷蔵庫で冷やしておく。

 まだ半分残っているスイカは、皮を切りおとして種を取り、大きめの角切りにした。

「これを小分けにして、冷凍しておくの。ミキサーを使えば、いつでもスイカのスムージーができるよ」

 と、カコが説明する。

「おいしそうだね」

「うん、暑い夏にぴったり」

 しゃべりながら、流れ作業をする。ほどなく、角切りのスイカをつめたフリーザーバッグが、いくつも冷凍室におさまった。

 

「みんなありがとう。さっき冷やしておいた分、食べようよ」

 千砂がテーブルの上を片付けて、取り皿を並べる。冷蔵庫からスイカの大皿が運ばれてきた。

 それぞれ席に着こうとしたとき、ドアが開く音がして、誰か入ってきた。

 

「やったー、スイカだ!」

 玄関に立って、うれしそうに笑っているのは、ぶーちゃんだ。

 

 私たちは固まったように動きをとめた。

「え、どうして?」

「いつのまに出ていったの?」

 聞かれて、ぶーちゃんは目をまるくした。

「出ていったって、なに? たった今、来たところよ。バイトが長びいちゃってさ」

 思わずあたりを見まわしたけれど、さっきから一緒にいたはずのぶーちゃんの姿はどこにもない。

 あまりにあっけにとられたせいか、怖いという気もちもわいてこなかった。私たちの呆然ぶりを、ぶーちゃんが不思議そうに見ていた。

 

 はっと思いあたったように、千砂がつぶやく。

「ザシキワラシさん……」

 ぶーちゃんを除く全員が、顔を見合わせてうなずいた。

 

 千砂は食器棚から6枚目の取り皿を出して、いちばん甘そうなスイカをのせると、誰もすわっていない上座に置いた。

 

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