かきがら掌編帖

10年あまり通っていた童話教室で「宿題」として書いたものに加筆修正して載せています。

落とし穴(創作掌編)

 真夜中に、ふと目がさめた。

(何か、音がしたかな)

 耳をすますと、庭の方から話し声が聞こえてくる。針が落ちる音のような、小さな声だ。

 

「――それから、ミドリ町のミドリ公園では、二日前に殺虫剤が散布されました。皆さん、しばらくのあいだ注意して下さい」

 そんなことを言っている。

 私は横になったまま、聞き耳をたてた。

 

「以上で、今月のお知らせはおしまいです。他に何か発言したい方はいらっしゃいますか?」

「はい、議長」

 と、声がかかる。

「近頃、落とし穴を掘るという、嘆かわしいいたずらがはやっています。これは、私たちが先月の集会で、地面を歩くことの大切さを訴え、これからは歩けるところは飛ばずに歩きましょう、と提案したことに対する嫌がらせにちがいありません」

「落とし穴ですって? その報告はまだ届いておりませんでした。誰か落ちて怪我などしていないといいのですが」

 議長が心配そうに尋ねた。

「それは、まだありません。しかし、落ちなかったからいい、という問題ではないのです。これが危険な悪ふざけだということにかわりはないのですから」

 

 すると、別の方から、からかうような声が聞こえた。

「おおげさだなあ。落とし穴のどこがそんなに危険だっていうんだい。もし落っこちたとしても、飛んで抜け出せばいいだけじゃないか」

「そうよ、歩いているばかりいるうちに、羽があることを忘れしまったんじゃないの?」

 

 挑戦的な発言をきっかけに、おおぜいが口々に言い立て始めた。

「なんですって!」

「そっちこそ、すっかり足が弱って、ふらふらしてるくせに」

「足がなんだ。羽さえあればどこでも行けるじゃないか」

 

 どうやら、歩くのが好きな「地面派」と、飛ぶのが好きな「空派」が半々くらいいて、たがいに一歩もゆずらない様相だ。

(おもしろいな。なんだか、大騒ぎになってきたぞ)

 といっても、風がさわさわと草むらをゆするくらいの音だったけれど。

 

「歩くことも、飛ぶことも、両方大切なんじゃありませんか」

 ひときわ高く、議長がさけぶと、いっせいに抗議の声があがった。

「両方なんて、ダメだよ」

「そうよ、そんなのずるいわ」

「そうだ、そうだ!」

 すかさず、議長が、

「ようやく皆さんの意見が一致しましたね。それでは、今夜はこれで閉会!」

 と、告げる。

 気勢をそがれた感じの笑い声もおきて、集会はにぎやかに解散した。

 

 翌朝、庭を探してみると、小指でつついたような、小さな落とし穴がいくつか見つかった。

 そのうちの一つに、テントウムシが一匹落っこちていた。仰向けに落ちたせいで羽が広げられず、足をジタバタ動かしている。

 

 私は、小指の先にそのテントウムシをとまらせて逃がしてやった。

 

 

 

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