かきがら掌編帖

10年あまり通っていた童話教室で「宿題」として書いたものに加筆修正して載せています。

カタツムリの夢

 一晩中、降りつづいた雨があがりました。

 

 紫陽花の葉かげで眠っていたカタツムリは、目をさまして、のんびりと動きはじめます。くもり空と、しめった空気が、気もちのいい朝でした。

 

 丸いかたちに寄りあつまって咲く紫陽花が見えてきました。

「また、青くなった。やっぱり、雨がふるたび、青くなる」

 ひとりうなずきながら、あざやかな青い花をながめます。

 

 さいしょ、花は白っぽい色をしていました。カタツムリは、花も葉っぱのように、みどり色になるのだと思いました。

 ところが、花は青い色に変わりはじめました。ひと雨ごとに、どんどん青くなっていきます。

 

     青い空は、雨が降ると青くなくなる

     紫陽花は、雨が降ると青くなる

     と、いうことは――

 

「そうか、空の青が、雨にとけて降ってきたんだ。それで、花は青くそまったのさ」

 ふと、心配になって、自分のからだを見まわします。

 だいじょうぶ、紫陽花のように、青くそまってはいません。きれいなカタツムリ色のままでした。

 ほっとして、朝ごはんを食べにいこうとしたときです。

 

 パチン!

 植木バサミの音がひびき、葉っぱがはげしくゆすぶられました。ふり落とされまいと、カタツムリはひっしでしがみつきました。

 女の子が、紫陽花を一枝、カタツムリの乗っていた葉ごと切りとったのです。

 水の入ったガラスびんに花をさし、そのまま庭先から出ていきます。

「おばあちゃん、好きだって言ってたから、きっとよろこぶわ」

 楽しげに、はずむような足どりでした。

 

 なにも知らないカタツムリは、殻にかくれてふるえていました。とつぜんふりかかってきた出来事に、生きた心地もしません。

 

「あれっ?」

 しばらくして、女の子が立ちどまりました。

 カタツムリに気づいたのです。葉の上から小さなカタツムリをつまみあげ、あたりを見まわすと、路地に咲いている紫陽花のところへ行って、そーっと置きました。

「気がつかなかったのよ。ごめんね」

 女の子の声と、遠ざかっていく足音を、カタツムリは殻のなかで聞いていました。

 

 殻から顔を出したのは、ずいぶん時間がたってからです。

 大きく、みずみずしい葉っぱの上でした。あたりは、うっとりするような静けさにつつまれています。

 けれど、さっきまでのおそろしさから、かんたんに立ち直ることはできません。びくびくしながら、かさなりあった葉のかげへ向かって、はいはじめました。

 

 丸くあつまって咲く紫陽花が見えてきます。

 花は、やさしいピンク色をしていました。

 

 カタツムリは、びっくりしてピンク色の紫陽花を見あげました。

「こんな色を見るのは初めてだ。なんて、うつくしい色だろう。――花の色は、雨がそめるんじゃなかったのか」

 その日、カタツムリは花をながめてすごし、花のそばで眠りました。

 

 そして、広い世界を旅して、さまざまな色のカタツムリに出あう夢を見たのです。

 

 

 

 

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